マンガの無料公開で起こる小さな祭り

ツッコミどころ満載の料理バトル漫画

ここ最近、Twitterであるマンガの話題を目にする機会が増えました。そのマンガとは『将太の寿司』です。

寿司職人である将太が「新人寿司職人コンクール」を舞台に、ライバルたちと日本一の寿司職人の座を争うといういわゆる料理バトルマンガです。

将太の寿司引用:amazon

少年漫画らしい王道のストーリー展開の面白さもさることながら、

「対戦相手を線路に突き落とし電車に轢かせる」
「嫌がらせとして腐った牡蠣を老人に無理やり食べさせる」
「店を潰すために主人公の父親が乗った漁船を沈没させる」
「食材調達を妨害するためノリの養殖場に火を放つ」
「対戦前日に主人公を呼び出し車のドアに手を挟む」

などなど、登場人物達の清々しいほどのクズっぷりも特徴のひとつ。
(ちなみに電車に轢かれたキャラは超人的な回復力により、翌日には寿司を握っています)

法の一線すら越える妨害工作を筆頭に「一流の寿司職人同士は心の声で会話可能」「寿司コンクールなのに駅弁で対決」などそのツッコミどころの多さから、Twitter上ではちょっとした祭りと化してしいました。

「もしかしたら自分のタイムライン上だけかもしれない」とキーワードで検索してみると多くの方が『将太の寿司』についてツイートしており、Googleにおける検索数も同時期に急上昇していました。ネット上では局地的ながら実際に『将太の寿司』祭りが起こっていたことが伺えます。

既存コンテンツの再付加価値化手段

なぜ突然90年代の作品が話題を呼んだのか。その発端はマンガ閲覧サイトでの全話無料公開にあったようです。

全話無料公開スクショ引用:スキマ
漫画村のような海賊版サイトは言わずもがな論外ですが、出版社をはじめとする正規のマンガサイトでも「1日1話」「1巻のみ」など当たり前のように無料でマンガを読めるようになりました。

多くの無料公開作品があるなかでも、将太の寿司が局地的に話題になった要因はネタにしやすい要素が多くTwitterと親和性が高かったこともありますが、「違法性のない正規のサイト」において「期間限定」、そしてなんといっても「全話無料」だったという点でしょう。
上記のサイトにはコンテンツホルダー(作家様・出版社様)から許諾を得て配信しており、広告収益等はコンテンツホルダーへ利益分配している旨の記載があります。

作品自体に魅力があることは前提として、期間限定ということでハマった方は全話読むため、ネット上では急激に共通性の高い話題になりました。共通の話題はやはり強いです。

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往年の読者は無料公開を契機に思い出ばなしとして話題にする

Twitterをきっかけに新規読者が増える

新規読者が話題を再生産

さらにそれをきっかけに新規読者が増える

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というループから祭りに発展したようです。

またあくまで私の感覚ですが、今回のようなケースは『将太の寿司』がはじめてではありません。『となりのヤングジャンプ』での2018年7月の『嘘喰い』全話無料公開、おなじく4月の『ゴールデンカムイ』100話無料公開時も同時期にTwitterで話題が増えました。
(調べたところGoogleの検索数も無料公開時期に比例して急激に上昇していました)

ある種定番の流れが生まれつつあるようです。

個人的にこの盛り上がり方は地上波で昔の人気ドラマや映画が再放送されたときの雰囲気に近いなと感じました。

全員が同時期に無料ですぐにアクセスできるため、話題になりやすいという点で共通するものがあります。いまや実写化、アニメ化で昔のマンガが再注目されることが主流になっていますが、規模は違えど既存コンテンツの再生手段として、全編無料公開も選択肢のひとつになる気がします。

すでにビジネス書では無料公開がひとつのトレンドになりつつあるようです。コンテンツ投稿サービスのnoteなどでは書籍を全文公開するユーザーが増えてきています。

Note引用:阿部広太郎note
「すべて読めたら購入者が減ってしまうのでは?」と直感的に思ってしまいますが、あえて無料公開することで従来より多くの人の目に触れることになり、結果的に購入者が増えると考えられます。また現時点では珍しいため、全文公開で話題になることが広告も兼ねているという側面もあるのでしょう。

無料でコンテンツに触れることが当たり前になってしまったいま、中身がわからないものにお金を払うハードルはより一層高くなっています。そのような意味でも無料公開は理にかなった戦略と言えるでしょう。

逆に言えば「購入して何度でも読みたい」と思えるような、繰り返しの視聴に耐える魅力的なコンテンツでないと生き残れない、より厳しい時代になってきているのかもしれません。