メディアの枠から「はみ出していく」コンテンツ

近年、増えすぎてしまった「オウンドメディア」に食傷気味…というのが、いまのユーザーの気分だと思います。日々の情報取得はSNS内でほぼ完結してしまうため、わざわざ検索やブックマークを経由してサイトを訪れる人は減少しており、特に若年層であるほどその傾向は顕著でしょう。そのためSNS上でいかに目に止まるかどうかがオウンドメディアにとっては死活問題です。

しかし、バズるという言葉すら埃を被りはじめているいま、純粋なコンテンツの魅力でユーザーの興味を引くのはますますハードルが高くなっています。

そんななか、ぐるなびが運営するオウンドメディア「みんなのごはん」が少し変わった切り口で勝負しています。その名の通り「みんなのごはん」は飲食店レポやレシピ紹介などをメインとするグルメ情報系のメディアです。

みんなのごはん
引用:みんなのごはん

「お手軽レシピ」と「サッカー審判員インタビュー」が混在

署名付きで内容が練られた記事も多々有り、私も定期的に閲覧する数少ないwebサイトのひとつですが、艶めかしい食べ物の写真と共に居酒屋レポやレシピ情報が並ぶなか、唐突に挟み込まれるのがサッカー関連のインタビュー記事。

みんなのごはん
引用:みんなのごはん

「審判が持つ「ゲーム流れ」を読みきる力……西村雄一は試合中に何を考えどこを見ているのか」という見出しとスーツ姿の写真からして食べ物の要素は皆無。異彩を放つというか、正直なところ違和感すら覚えます。「食べ物の話題がメインの見出し詐欺なのだろう」と鼻白む気持ちで記事を見ても、食に関する話題は最後に申し訳程度に触れているのみ。わかりやすさやキャッチーさ先行でなく、テキストメインで淡々と構成される内容はスポーツ専門メディアが手がけるインタビュー記事のそれに近いです。

アーカイブを遡ってみると、このインタビューは記事は2015年から(!)続いている連載シリーズのようです。サッカーの話題には疎い私からすると人選や内容が渋い、というかぶっちゃけまったく知らない人も多く少なくともグルメ情報を目当てにふらっと訪れたユーザー向けではないのは明らかです。しかし、門外漢である私が見てもあくまで記者が書きたいものを書いているという熱量と真摯さが伝わってきます。

優先すべきは制作側の熱量とコンテンツの質、であってほしい

この背景には「誠実で良質なコンテンツは受け手にもきっと響く」という運営側の静かな熱意があるように感じるのは、さすがに青過ぎるでしょうか?

担当記者である森雅史さんのプロフィールにはサッカー誌編集から、現在はJリーグ公認の登録フリーランス記者とあり、上説の審判の方のインタビューをはじめとして、かなりコアなサッカーファン向けのコンテンツであることが伺えます。実際、熱心なサッカーファンとおぼしき方が記事を評価する声もSNS上で散見されます。紙媒体以上に移り変わりの早いwebメディアで3年近く連載していることがユーザーから支持を得ているなによりの証拠でしょう。

森雅史さんのブログを見ると、ご自身も内容が食べ物からかけ離れてしまっていることに不安を感じている様子が伺えますが、質の高い記事を作ろうという制作側の誠実さに対してユーザー側の評価が比例した、ある意味健全で爽快な成功事例だと思います。

※最近では別の記者によって将棋の棋士へのインタビューシリーズもはじまったようです。まだ2回のみですが、こちらもグルメ情報はほぼ皆無で、将棋の話題に終始しています。

メディアという枠組にこだわっているのは誰なのか

さらに気になるのが、偶然か意図的かサイト内にはインタビュー記事用の個別カテゴリやタグが設定されていない点。(むしろ体裁として「グルメレポ」のタグが付けられてるあたりが微笑ましい)

サイト内からの流入は二の次で、SNS上からの記事単体での閲覧を前提にしているようにも見受けられます。単体で記事を読んだ方のなかには、これがグルメ情報系のメディアということすら認識していない人もいるかもしれません。サイトという単位で閲覧する私のような古風な読者や、メディアの運営側からするとジャンルの異なるコンテンツがあることに違和感を覚えてしまいます。しかし、メディアとしての一貫性など運用側の都合にしか過ぎず、受け手は気にも留めていないでしょう。

いまや大半のユーザーはメディアという枠は意識せず、SNSという別の枠内でそれぞれのコンテンツに触れています。いくらメディアという形で綺麗にまとめても、結局タイムラインで上で細切れにされコンテンツ単体で消費されていきます。

雑誌などのパッケージ化されたメディアに愛着を抱く世代のひとりとしては、一抹の寂しさを覚える部分もあるのですが、逆に言えばパッケージとしてのメディアの影響力が弱くなったことで、シンプルにコンテンツの質が高ければ評価される可能性があるという見方もできます。web上のコンテンツ量が膨大になったからこそ、質を重視する流れが来ているように感じます。

紙媒体が急激に失速するなかで、専門ライターですら専業では食べていけないとも耳にします。実力のあるライターが正当に評価される活躍の場がweb上にできたらかなり面白くなるのになー、と夢想する今日このごろです。