新しいネイバーフッドが求められている

もしこの本に書かれていることがすべてだとしたら(僕は行ったことがないのだが)、ポートランドは、現代の都市の理想形のひとつに思えてくる。
『グリーンネイバーフッド』という本を読んだ。
ポートランドの「パール・ディストリクト」という元倉庫街の再開発事例を中心に、この都市の独特の――
・コミュニティ志向
・文化的多様性
・クリエイティブ性
・エコ指向性
――といったものをたくさんの大きな写真とともに紹介している。
読んでて個人的に「ポートランドいいなー行ってみたいなー」と思えたのは次のようなポイントだ。
・さほど広くないエリアに、いいレストランやカフェ、ショップ、アートギャラリーなどが集まっていること。
・しかも、グローバルチェーンストアではなく、ローカルで独立系のそういう店が並んでいるらしいこと。
・そこをクルマではなくて、そぞろ歩きできること。
・路面電車が走っていること!
・全米有数の自転車都市でもあること。
・古い建物をコンバージョンして使っていること。
・「ファーストサーズデイ」というアートをテーマにしたブロックパーティが毎月第一木曜日に行われること。3ブロックから車を締め出してやるんだそうだ。
・コーヒーがおいしそうなこと。
・地元の小ブルワリーのビールが飲めること。
・地元の大きな本屋さんがあること。
・有名な自転車ビルダーがいくつもあること。
・小さい都市なのに、ナイキ、コロンビア、ワイデン&ケネディのような世界的企業の本拠地だということ。
・アートカレッジがパール・ディストリクトの街の中にあって、クリエイティブな学生街っぽさがありそうなこと。
・などなど。
それにしても、どうすればこんな都市が成立しうるのか?
この本の中では「アーバン・ネイバーフッド」というキーワードが繰り返し出てくる。
都市の風通しのよさと、コミュニティの親密さを兼ね備えたような新しい関係性というようなことだろうか。そういう関係性を生み出すことに意識的になって、街をデザインする。
あるいは、「ダイバーシティ(多様性)」に意識的であることが一つの鍵であるようにも読める。意図してあえてゾーンニング(機能・用途で区分けすること)をしないで、いろんな機能の店やオフィスや住居、いろんな階層の人たち、グローバルブランドからローカルビジネスまでを、街中に混在させること。
ただ、その多様性は、たぶんある「節度ある幅」に収められているんじゃないのかと思われる。
この街は知的でセンスがよく、かつ適度にフレンドリーで、ちょうどいい大きさで、節度ある自由が保たれているが、それは言い換えれば、いわばヤッピー的、ボボス的な文化レンジでしっかりディレクションされているということでもあって、その意味では、逆に選民的と言えなくもない気がする。
(とはいえある程度選民的な街でないと(どんな民を選ぶにしても)、魅力的にはならないのかもしれない)
アーバン・ネイバーフッドを創り出す、ダイバーシティを保つ、と文字にするのは簡単だが、これを街に参加するプレイヤーの自主性に任せているだけだと、ふつうはなかなかうまくいかないような気がする。行政的制約か経済的制約が必要だと思うのだが、ではそれをどう行使したらうまくいくのかは僕にはさっぱりわからない。
この本からは、パール・ディストリクトの開発には、公共的センスがありヴィジョンを持った民間ディベロッパー(ホイト社)と進歩的な公共機関(ポートランド市開発局)の協力関係、そしてコミュニティや街のビジネスを支援するNPOとの連携が成功の背景にあったということがうかがえる。
でも、こんなふうに理想的にパーツが揃うこと自体がそうあることではない上に、これらだけがパール・ディストリクトの要因というわけではないだろうから、なんにせよ並大抵なことではない。
ちょうどこの『グリーンネイバーフッド』という本を読んだ頃に、前後して――
建築家の馬場正尊の『都市をリノベーション』という本、
 隈 研吾と清野由美の『新・ムラ論TOKYO』という本
――を読んだ。
たんに偶然続けて読んだだけだったのだけど、いずれにも共通していたのは、「新しいネイバーフッド」がいま求められてるんだ、面白いんだ、という考え方だろう。かつての村的なコミュニティよりももっと自由な、都会的なコミュニティを作るのが、これからの都市開発なんだということ。
最近東京では都心でさえ、コンビニとチェーンストアによる「最適化」が進んでいるように見える。都心の再開発でできるビルはたいてい、ありふれたチェーンストアにちょっと気の利いたチェーンストアが組み合わせられている。
僕の家の最寄駅前にいたっては、学生が多い街のはずなのに、コンビニとチェーンストアだらけになってしまった(そんな中で独立系も頑張っているのは美容室とラーメン店か)。
コンビニとチェーンストアしかないのにやたらに地価の高い土地に住む理由ってなんなんだろうか。。

グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた
吹田 良平
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