第9回 田原総一朗の遺言

田原総一朗(76)にモテキがやってきている。
ある程度ネットやテレビを見てる人はわかると思うが、このところの田原総一朗の活躍っぷりはすごい。対談とかUST討論会とかニコ生討論会とかツイッターとか、とにかく出まくっている。吠えまくっている。
かと思えば、こんなのもやったり。
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(*「ガキ使」の企画「田原総一朗の100のコト」の一場面)
出演する媒体の幅(テレビ~ニコ生まで)、受ける仕事の幅(討論~バラエティまで)で考えると、田原総一朗はいま最も過激に活動している文化人なんじゃないかと思う。

で、その田原総一朗の過激さのルーツとも言える、テレビディレクター時代のドキュメンタリーが10月23日(土)BSジャパンにて放送される。番組名はなんとも意味深な「田原総一朗の遺言」。

もともと田原総一朗はテレビ東京のディレクターだった。今でもテレ東は他の民放キー局に比べて弱小的な扱いを受けているが、まだ「東京12チャンネル」という呼称だった当時は今以上に「誰も観てない」チャンネルだったらしい。田原氏いわく、「テレビ番外地」。

で、視聴率も低いし、予算も他局に比べて全然ないという状況の中で、「なんでもやってやろう」という超ゲリラ精神でドキュメンタリーを撮ろうとした、と。個々の解説はあとで書くが、ストレートに社会問題を扱うようなものは少なく、題材自体がまず過激。さらに田原がそれを過激にディレクションしていく。そういうドキュメンタリーの数々である。

こう書くと「それってドキュメンタリーなの?」と疑問に感じる人もいるかもしれない。たぶん今でも(今の方が?)「ドキュメンタリーは中立であるべき、ありのままを撮るべき」という幻想を持っている人はすごく多いんだろうと思う。マスコミを「マスゴミ」みたいな言い方で表現する人とかモロそうだよね。

でも田原総一朗は「そもそもカメラを向けた時点で<ありのまま>なんてありえない」と言う。カメラを向けられた人間は、必ずカメラを意識して「こう撮られたい」というロールプレイングをすることになる。完全なる<ありのまま>を撮ることは事実上不可能だ。ていうか、それって観てて果たして見ごたえがあるのか?

田原総一朗が考えるドキュメンタリーは「対象との関係性を撮らえたもの」である。つまり、取材対象に田原がどんどん積極的に関与していく。その過程で引き出された相手の(本音の、とっさの)反応にこそ、ドキュメンタリーの神髄がある。彼の作るドキュメンタリーはすべてそういう哲学に基づいて制作されている。

ていうか、そういう意味で言うと今でも続いている「朝まで生テレビ!」だって、ドキュメンタリー番組だと言える。あの番組での田原総一朗のポジションは名目は「司会」だけど、実質は「アジテーター」だ。全員の意見をまとめて着地点を見出そうとするのではなく、パネリストたちにガンガン切り込んでいって、彼らの「テレビ用」ではない本音の主張を引き出している。

朝生ファンのあいだではおなじみの名場面「聖徳太子」なんて、まさにそうじゃないか。

そういう田原総一朗のルーツ的作品が放映されるわけである。俺はいち早く試写で観ることができたのだけど、映像は全然キレイじゃないし、音は雑音が混じって聞き取りにくいし、構成も全然スマートじゃない。でも、予定調和や自主規制にまみれた今の番組に見慣れた目からすると、どれもこれも強烈な刺激を感じるドキュメンタリーだった。作品そのものも面白いのだけれど、観終わった後は必ず今のテレビの状況について思いを馳せざるをえなくなる。そういう作品。BJジャパンって見たことない!みたいな人もいるかもしれないけど、まあこの機会にチェックしてみてくださいよ(ていうかたぶんこの機会を逃すと二度と視聴できないかも)。
●『バリケードの中のジャズ』
~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~―山下洋輔(1969)
学生たちによりバリケード封鎖された早稲田大学。中核・革マル等のセクト闘争まっただ中の構内で、白昼堂々、大隈講堂からピアノが盗み出される。運び先はなんと対立セクトのアジト。ゲバ学生たちが取り囲む一触即発の空気の中、ジャズピアニスト・山下洋輔の渾身の演奏が始まる……。山下がうっかり「ピアノを弾きながら死にたい」と田原に発言したことがきっかけで成立したドキュメンタリー。当時の早稲田大学構内の緊迫感と山下洋輔の肉体的な演奏の対比が見もの。
●『宣言ポルノ女優 白川和子』
(1972)
今よりも圧倒的にポルノ女優の社会的地位が低かった時代、「団地妻」シリーズで日活ロマンポルノのトップ女優だった白川和子を追ったドキュメンタリー。慰問先の老人ホームで歓迎されるうち、ある老人男性に気に入られ……。クライマックスは老人男性とのやり取りのシーン。エロスという領域を遥かに超えた、まさに「ドキュメンタリー」としか言いようのない名場面となっている。このシーンは、後に「楢山節考」でカンヌ映画祭パルムドールを受賞する映画監督・今村昌平から激賞されたという。
●『オレはガンじゃない!』
~片腕の俳優・高橋英二の一年半~(1970)
病院のベッドから、カメラに向かって明日片腕を切り落とすことを告白する俳優・高橋英二。がんによって余命半年と宣告された高橋が、その状況を逆手に取ってメディアでのし上がり、そして翻弄される様を追ったドキュメンタリー。ラストシーンは一瞬の衝撃の後、悲しみでも感動でもない不定型な感情にしばらく包まれた。
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10月23日(土)21:00~
BSジャパンにて放送
*番組内にて上記3本のドキュメンタリー作品を上映
まえだ・たかひろ●現在発売中の「TV Bros.」で、田原総一朗さんにインタビューしております。自分でやっといて言うのもなんですが、マジで面白いインタビューですよ。