なくなっていくからこそ、安心して言えることがある。 / リグレト

ヘコんだことを打ち明けて、なぐさめてもらう──。そんなシンプルなサイト「リグレト」がじわじわと人気を博している。運営会社ディヴィデュアル代表・遠藤拓己さんに話を聞いた。

テキスト:川崎和哉(Spoo! inc.

 ヘコみを打ち明けるときに気になるのは「コメントで叩かれてしまう」ことだと思うのだが、リグレトにはなぜか悪いコメントが見当たらない。

「ネガティブなコメントを誘発しないようなデザインを意識しています。ちょっとかわいらしいインターフェースとか、手書きっぽいフォントとか。匿名の掲示板で従来あったギスギスした感じ、『自業自得だろ』みたいな感じを、デザインの力で防ぐことができると信じているところがある」

 2ちゃんねるのようにスレッドを検索で見つけることができないのも、その意志の表れだろうか。

「検索も出来ない、スレッドも続いていかない、書き込みは時間と共に流れていく。それはつまり『人間の自然に近い』ということなんです。みんな基本的にはどんどん忘れながら、一方で新しいことをどんどん経験していく。『元カレのことを忘れられない』という悩みに対して、解決方法を答えるサイトもあるけど、リグレトの場合は『忘れられない!』ってことを打ち明けて、みんなにワイワイ言ってもらえるのがいいんです。『自分一人じゃないんだ』とわかってくることで、『私もがんばらなきゃ』と思って次に進むことができる」

 IDを取らずに、誰でもすぐヘコみを告白できる匿名性もサイトの性格を大きく決定づけている。

「IDがあると、その人が過去に何を書いたか探られる可能性があるわけですよね。実際そこまでやる人はいないだろうけど、可能性がゼロじゃないことによって書けなくなることって、たぶんものすごくある。ヘコみの内の90%は、たぶん後で調べられたくないもののはずです。『不倫してる』とか『学校の先生を好きになった』とか。だから心理的なハードルを下げるために匿名性が必要なんです」

 検索不可、字数制限、データが残らない……リグレトの特徴は、まるでネットの便利さに対するアンチテーゼのようにも見える。

「オーバーに言うと、アーカイブされること自体が、人類の歴史的には異常な状態なんです。自分の書いたものがすべて残っている状態は今までなかったわけだから。会話の本質的な楽しさって、その場限りの刹那的なやり取りだと思うのに、ネットで何か発言すると5年後でも残っていて、驚愕するみたいなことがある(笑)。そのことを考えて物が言えなくなるという状況が起こっていると思います。だから、ネットにもっと『自然』の要素を組み込んでいきたいんです」

 ネットの負の部分を熟知する一方、ロマンチックなほどにネットの可能性を信じてもいる。

「『がんばれ!』と励ますことで、ネットの向こうの誰かを勇気づけられたら、これほど嬉しいことはない。それで相手から『ありがとう』が送られてきて、また相手に思いを馳せたり。そんな風にネットの向こうをどんどん信じられるようになれば、いろんなことが良くなっていくと思うんです」

リグレト みんなでヘコめばコワくない! 「ヘコむ」を楽しむサイト

◆プロフィール:遠藤拓己(ディヴィデュアル

1971年横浜生まれ。国立音楽大学を卒業後、文化庁派遣芸術家として渡欧。以降、欧州を拠点に活動。2006年未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエーター。現在、株式会社ディヴィデュアル代表取締役。