「世界を良くする」ツールを手に入れる

 僕はいわゆる「自転車乗り」でも「自転車持ち」でもないので、どこの自転車が優れているかなんてよくわからないのだけど、でもここの自転車はちょっと違うなーかっこいいなーと思うブランドがあって、それがSurlyだ。これは普通の自転車メーカーじゃないな、という感じが、僕みたいなシロウトでもすぐわかる。
 姿勢というか思想というかスタイルがあって、それが製品やロゴやカタログにはっきり反映されている。米国カウンターカルチャーの匂いがするというかロックっぽいというか。米国のアウトドアブランドのようなメッセージ色も感じるし、スケートカルチャーのようなストリート感も
ある。
(でもBMXとかトラックバイクのブランドというわけでもない。ロードもMTBもシクロクロスも一輪車も作っている)
 たとえばこんな文章を読むと、その感じが伝わるかもしれない。これはカタログの訳文だ。
 こんちは。Surlyタウンにお立ち寄りいただき……本当に感謝しています。初めての方にしてみれば僕たちが何者なのか、何をしてるんだとか気になるところですよね。僕たちはバイクに乗ることが好きな人間です。で、同じくバイクに乗るのが好きな人たちに向けて、賢くて、乗って楽しく、丈夫で、そして手ごろな価格のフレームやパーツ、ウエアを考えて作っています。見栄えのする派手な物なんて何もないのですよ。でも有用な物がすべて美しいように僕たちの作る物は美しいんです。
(中略)
 自転車はなにをするにしてもそれをより楽しくします。シングルトラックを急降下する時も、仲間とビールを飲みに出かける時も、仕事や学校に行ったり、冷蔵庫を運ぶ時も(冗談だと思ってるでしょう?)。こんなにいろいろできて使うたびに楽しいモノがほかにあるでしょうか? マイカー? iPod? 脱スーツなビジネスカジュアルで決めてみること? ねえみなさん。シンプルな美しさ、効率、扱いやすさ、それから気が遠くなるほどの「自由」な感覚……これをみんな持ってる自転車ってやつは世の中に貢献する可能性があるなんてもんじゃなくて世の中を良くしてる……今この瞬間にも……と僕たちは信じてるんです。
(via RIDE 2 ROCK
 ひとたび出掛けてしまえば、ツーリングは心をリセットしてくれ、肉体と精神を奮い立たせてくれます。ツーリングは心を揺さぶり、清め、癒して、再充電してくれます。毎日の決まり切った雑事など意味のない事としてすっかり頭から消えていきます。そこには自分だけが存在するし、自分が存在するのに必要な物全てが自転車の上に、乗っかっているのです。
(中略)
 Long Haul Truckerは決して全ての人に向けられたモデルではありません。岩場のシングルトラックを下るようなレースはもってのほか、流行の担い手でもなければ、友人を魅了するフレームでもないでしょう。しかしそれは正にあなたの中にある可能性を見いだす為のツールなのです。さあ、あなたの準備はできたでしょうか?
 僕はSurlyの自転車を持っていないし、実はいまのところ買う予定もないのだけど、こういう文章を読むと、それだけでビビッと反応してしまう。自分の中で半ば妄想気味に作り上げられた、米国的自由みたいなものへの憧れが共振する。
 こういうぐっとくるステイトメントが米国のブランドはうまいなーと思う。
 とくに目立つのはアウトドアブランドだ。たとえばパタゴニアを買う人は、決してその機能だけを購入しているわけではなくて、あの会社が体現している価値観、発信しているメッセージや行動にお布施を払っているところがある(だから値段が高くてもオッケーなんだろう)。
 ノースフェイスやグレゴリーにしてもそうだ。僕らはそれらの背後にあるブランドストーリーであるバックパッカー伝説に(も)お金を出している。
 もちろんブランドストーリーだけがひとり歩きし始めて、ほんとうに純粋な幻想に値札がついたような格好になっているものもあるのかもしれないけど、でも、なんのストーリーもメッセージもない機能に金を払うよりも、「自分の可能性を見出すためのツール」に金を払う方が、いい気持ちになれそうだ。
(とはいえ、僕は天邪鬼なのだろう、Surlyを買うよりも、SurlyのCross Checkみたいなツーリングバイクを、別のメーカーから探し出して手に入れたいと思っている。それか、フレーム買って作るか。今年中に実現したいなー)

写真:Cross Check