「話しがウマすぎる」くらいウマい新エネルギー資源

 ここに書かれていることが実現可能なのか僕には判断できないし、書かれていることすべてが正しいのかどうかも判断できないのだけど、仮に正しいとしたらすごいことだし、これが実現していくのだとしたら、本当に胸躍ることだと思う。
 東京工業大学教授の矢部孝さんが研究・開発を進めている新しいエネルギー源はマグネシウム。『マグネシウム文明論』は、この矢部氏が構想しているマグネシウムによる未来のエネルギー循環型社会のビジョンを、フリーライター/編集者の山路達也さんがわかりやすくまとめた本だ。
 すでにいろんなとこで話題になっているそうで、
小飼 弾さんがいち早くレビューされていた。
 この本で描かれてるエネルギー循環のかたちをまとめるとこんな感じになる。
  • 日本国内のエネルギー消費を太陽光発電ですべてまかなおうとすると国土の60%をソーラーパネルで覆い尽くす必要がある。水素や核融合には資源的あるいは技術的な高いハードルがある。
  • 石油に代わるエネルギー源として、実現可能性が高く、さまざまな面で有望なのはマグネシウム。
  • マグネシウムは海水に含まれていて、その量は1800兆トン(石油10万年分)。
  • で、このマグネシウムを使って次のような循環を作る。
    1. 矢部氏が開発した淡水化技術(太陽光で蒸留)によって、水問題を解決しつつマグネシウム化合物を海水から取り出す。
    2. 太陽光から直接レーザーを作り(太陽光励起レーザー)、それによって高効率・低コストで、マグネシウム化合物から純粋な金属マグネシウムを精錬。
    3-a. マグネシウムを酸素と反応させる「金属空気電池」でクルマ(EV)を走らせる。
    3-b. 火力発電所の燃料として、(石炭・石油の代わりに)マグネシウムを使う(マグネシウムと酸素の反応ではCO2は発生しない)。
    4. 使用したマグネシウムは酸化マグネシウムになるので、回収して再び太陽光励起レーザーで精錬して、マグネシウムに戻すことができる。
    ――以下くり返し。
     うーん。。きわめてシンプルで明快。しかも実験設備は稼働していて、淡水化技術については製品化もされている。このループがうまく回るなら、ほんとにすごいことだと思った。
     ところで、著者らはマグネシウムを「エネルギー通貨として利用する」という表現を使っていた。太陽光が持っているエネルギーを金属マグネシウムに転換して、それをいろんなところで使えばいいじゃんということだろうか。マグネシウムを「燃やす」んだけども、実はそこで取り出されているエネルギーは、精錬したときに太陽光励起レーザーからマグネシウムに転換された凝縮された太陽光エネルギーと考えることができる、というような。
     太陽電池は太陽光を電気に変換するものだけども、電気は貯めておくのが難しい。マグネシウムという金属になっていれば、なるほど運搬も簡単だ。クルマの電池に使うマグネシウムは、パックにしてコンビニで売ればいい、と著者らは書いている。
     あまりにシンプルで「話がうますぎる」ので、逆ににわかに信じがたい感じもするのだけど、矢部氏は『The Magnesium Civilization』というサイトで、メールやTwitterで寄せられる疑問に回答している。
     もっとも、仮に理論的にはカンペキだとしても、実際の普及は事業的に成功できるかどうかにかかっているだろう。
     本当であってくれ! うまくいってくれ!と願いたくなる話だ。

    マグネシウム文明論 (PHP新書)
    4569775616