いまのウェブにはファンタジーが足りない / 菅付雅信

CUT、コンポジット、インビテーション、そして数多くの書籍や写真集…。「最後の名編集者」菅付雅信さんが、ウェブに本格的に参入する!
(Illustration by Florence Deygas)

テキスト:川崎和哉(Spoo! inc.

 90年代後半、ウェブデザインがやたらに凝ったグラフィカルなものを指向した時期がある。ところが2000年代に入るとこんどは更新性が求められるようになり、ブログ的なインターフェイスのサイトが多数派になる。でもそろそろ、そのどちらでもない、新しいウェブのスタイルが生まれてきていい頃だ。

「まさにそこがいちばんの課題だった。グラフィカルなサイトを目指すとFlashをいっぱい使って重くなりがち。でも重いと1回見たらもう見たくなくなっちゃう」

 編集者の菅付さんからメールをもらった。坂本龍一の新レーベル「コモンズ」のサイトを編集したという。デザインにはルイ・ヴィトンジャパンのサイトなどの仕事で知られるシモーネを起用した。

「伝えたいことがいっぱいあるし、CDリリースもたくさんあるから、作品性の高さばかり追求してもしょうがない。でもかっこ悪いのは嫌だ。それが難しくてね。実験を繰り返して、いっぱい失敗作を作った」

 結果誕生したサイトは、グラフィカルな表現とブログ的なスピーディな更新性を両立したものになった。

「見てもらえばわかるとおり、ポストイットがいっぱい貼ってあるようなデザインになっていて、それを自由にマウスで動かせる。つまりレイアウトフリーなんです。

 あと、意識していたのはYouTube時代の音楽レーベルサイトっていうことで、毎週スタッフによる動画がアップされる。いま音楽業界はすごく疲弊しているけど、その中で思うのは、レーベルに携わっているスタッフが楽しくかっこよく見えるサイトにするべきだってこと。だから完成形だけを見せるんじゃなくて、プロセスを面白く見せれる、ステーションのようなサイトにした」

 菅付さんが現在のウェブメディアの世界をどう見ているのか、ということにも僕はとても興味があった。

「ニュース発信性、情報性という点ではウェブは紙よりも圧倒的にすぐれていると僕は思ってる。で、いまウェブマガジンをやっている人たちはそのニュース発信性・情報性にすごく力を入れていて、それはそれでいいと思う。でもその一方で紙媒体には、ファッションストーリーとか作りこんだ特集とか、ある種のファンタジーがある。『雑誌を読むことはアームチェア・トラベリングだ』っていう言い方があるんですが、そういうファンタジーを作るノウハウや体力や欲望が、ITの人たちにはないと思うんです。

 だから次はシモーネと一緒に、ニュース性とファンタジーを両立させた、まったく新しいポータルサイトをやろうと考えている。ウェブの方が紙よりすごいよっていうのを出せるんじゃないかと思っているんです」

 菅付さんは、いまのウェブはまだまだスタート地点だ、とも言っていた。ちょっとわくわくさせるような、マニフェストではないか。

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レイアウトがランダムに変化。坂本龍一氏が近況を写真でUPするコーナーや世界のエコニュースも充実。

Profile: 菅付雅信

「コンポジット」「インビテーション」「エココロ」の編集長を歴任。現在は書籍の編集とプランニングを中心に活動。新書シリーズ「カルチャー・スタディーズ」、編集者をテーマにした「東京の編集」などを年内刊行予定。