わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる/Dain氏

あらゆるジャンルの書籍を紹介し続ける人気ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」。日々発刊される書籍について事細かに解説したエントリーをチェックすれば、その本を読んだ気分になれるということで、膨大な数の書籍のサマリーとして利用している人もいることでしょう。今回は、そんなエントリーを日々書きつづるDainさんにご登場いただき、ネットの時代における「スゴ本」探しの極意を伺いました。

インタビュー:川崎和哉(Spoo! inc.
テキスト:小林邦昭(Spoo! inc.

▼本を読んで得たものを形にするため、ブログに残しているんです

川崎:Dainさんがブログを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。

Dain:直接のきっかけは「極東ブログ」の影響です。自分の意見をネットで公開して、みんなの意見も聞けるということが面白いなと思い始めてみました。最初は「僕はこんなにスゴイ本を読んでいるんだぞ」という自慢したい気持ちがあって、そのために書いていました。だけどブログを続けていくうちに、僕以上にスゴイ本を読んでいる人たちの影響を受けて、どんどん読む範囲が増えていったんです。自分ひとりだと特定の分野だけを掘り下げてしまうのですが、そうなることなく視野が広がりましたね。

川崎:読者の立場からすると、非常にわかりやすく本の概要をまとめてくれているのでたいへん助かっています。

Dain:僕が本を読む理由は、変わりたいという気持ちがあるからなんです。読んで自分が変わらなければ、その本にかけたお金も時間も無駄になってしまう。本を読んで得たものを形にするため、ブログに残しているんです。嬉しいのは僕の記事を読んで、「興味のある本だったんだけど、読まなくていいと思いました」というコメントをもらったときです。僕のエントリーによって、その人の時間をセーブできたわけですから。当然、エントリーを見て「この本を買いました」という反応も嬉しいですよ。

川崎:書店の棚に並ぶ本は新刊がメインですが、Dainさんのセレクトはそういった書店のセレクトとはまったく違うものですね。

Dain:本屋は出会い系と一緒なんです。気に入ったら手にとって読んでみるという、一期一会の出会い。これまで本屋も古本屋もさんざん利用したんですが、そういう出会い系は飽きました(笑)。今は図書館ばかり行ってますね。図書館で自分の気に入った本をみつけてその周囲を見渡すと、さらにそこから世界が広がるんです。本屋では目立った本だけにそのまま吸い寄せられてしまい、周りを見ても2番手3番手ともいえるタイトルしかないんですが、図書館では時間というフィルターをくぐり抜けた作品だけが置かれているから、駄本が少ないというメリットもあるんです。今はだいたい、図書館で週に20冊くらい借りています。

川崎:その他にDainさんの考える図書館のメリットを教えてください。

Dain:図書館のカウンターの奥には返却されたばかりの本と予約されている本が並んでいますが、そこをチェックすると一過性の流行ではない本当のベストセラーがわかるんです。誰かが借りようとしている本、誰かが返した本を何度も見ていると、これは古い本にもかかわらず何度も借りられているな、というのがわかってきます。また、以前は買って読まない本というのもそれなりにありましたが、図書館では返却の義務があるからそれまでに読み終えなければならないんです。これらは大きなメリットですね。

川崎:なるほど。では、現在の図書館に対する要望はありますか。

Dain:要望ではないのですが、流行の本をこぞって置くのは止めてほしいですね。図書館からすれば税金を使っているので回転率を上げるのは当然ですが、ベストセラー本を大量に入荷してもブームが去った後はほとんど読まれてないんです。だから図書館は過剰にブームを追わないでほしいですね。じっくり本とつきあうなら図書館が最適だと考えています。

▼この人がお勧めする本だったら読んでみよう、という人を探すことが重要です

川崎:Dainさんの奥さんもかなりの読書家らしいですね。

Dain:うちの奥さんと比べれば僕なんてぜんぜん読書家じゃありませんよ(笑)。読むスピードも僕の倍ですから。平均で1日1冊は読んでいますね。1日で3冊読み終えた日もありましたが、それは流石に驚きました。僕が図書館派になったのも、奥さんに連れて行かれたことがきっかけです。彼女は図書館に行くと自分の好きな本に呼び止められる、というんです。といっても、正確には自分の気になるキーワードが含まれている本の背表紙に無意識のうちに反応しているだけなんでしょうけど。僕は本屋だったら同じことができますが、図書館では本のオーラがフィルタリングされてしまっているので無理ですね(笑)。

川崎:Dainさんはどのようにして本を探しているんですか。

Dain:自分のブログのコメント欄やはてなブックマークの書き込みを参照して、知らない本を当たっています。やっぱり集合知は使えますね。はてなのサービスや、その他のサービスでも可能な方法ですが、まず自分の好きな本のタイトルで検索をかけて、その本を読んだ人を抽出します。そこからさらにエントリーを読んで絞っていくと、自分と興味の被る人がわかってくるんです。そういう人を2人以上見つけて、共通してお勧めしている本を見つけるんです。その方法がかなり有効ですね。本を探すのではなくて、人を探す。この人がお勧めする本だったら読んでみよう、という人をまず探すんです。そういう人を複数みつけて、全員が共通して挙げている本はスゴ本の確率が高まりますね。

川崎:自分の好きな書評家のセレクトを参考にするという読書術は昔からありましたね。今ではWebを通じて、従来とは比べものにならない人数の意見を聞けるのが強みですね。

Dain:確かに昔は新聞や雑誌の書評を参考にしていましたが、今はRSSで100人以上の意見を参考にできます。あとは、グーグルでアマゾンなどの大手書店の名前をはじく設定で本のタイトルを検索すると、純粋にその本をお薦めしている人が引っかかるんです。人を探す、というのがポイントです。

川崎:Web上のテキストも沢山読まれていると思いますが、Webがなかった時代と比べてテキストを読む総量は増えていますか。

Dain:全体的に増えていますね。Webの普及以外にも、図書館という世界を知ってしまったのでリミッターが吹っ切れたんです(笑)。図書館でも検索サービスがあるので、アマゾンでいいなと思った本を図書館で検索して、図書館でみつけた本をアマゾンで検索する。こうすることで、自分の興味のあるキーワードが本のリストになっていくので非常に便利です。

▼書くことと考えることは一緒だから、書きながら考えて、考えながら書いています

川崎:Dainさんのブログは一冊の書籍にできそうな気がします。でも、ご自身はライティングを職業にするつもりはないんですよね。

Dain:そうですね。先ほども言ったように純粋に自分が変わるために本を読んでいますから。書くことと考えることは一緒なんです。書きながら考えて、考えながら書いています。でもたまに、「このテーマで原稿を書いてください」という仕事の依頼は来ますよ。ただ、ブログ全体を書籍化するとなると、エントリーのピックアップ基準が難しいですね。

川崎:ブログの右カラムに「最近のスゴ本」として紹介される本をピックアップしても面白そうですね。

Dain:それは絶版ものもあるし、かなり偏ってしまいますね。「最近のスゴ本」覧はただ単に個人的にスゴイと思う本をメインに取り上げています。野坂昭如の「骨蛾身峠死人葛」など明らかに劇薬のものも取り上げているんで、あまりお勧めはできません(笑)。本にまとめるのも嬉しい話ですけど、一部の無難なエントリーだけをスキミングすると僕の毒の部分が抜けてしまうんですよね。

川崎:Dainさんが一目置いているブロガーの小飼さんと橋本さんについては、どの辺がすごいとお考えですか。

Dain:小飼さん、橋本さんともに読書量がものすごく、自分と興味が異なるので一目置いています。僕が疎いジャンルについて詳しく知っていて、かつ膨大な情報を発信している。そこが非常に参考になります。

川崎:1日の生活で読書をするのはいつですか。

Dain:電車9割、家1割ですね。通勤が片道1時間と少しなので、電車内がメインです。平日は仕事、週末は家族サービスもあるので、まとまった時間が取れないんです。ちなみに3ヶ月読まない本は売るか人にあげます。同僚にあげれば、自分が見たいときにいつでも借りて読めますし(笑)。

川崎:Webも書籍も含め、膨大なテキストに日々触れることで感じる変化などはありますか。

Dain:短時間で要旨を掴み取る力が増えました。効率重視の読み方になったんですが、その分小説を楽しむ力が減ってしまった気がします。時間をかけて小説を読んでドキドキハラハラしたいんですが、それができなくなって少し寂しいですね。でもそこは、じっくり読みたい本と、効率的に読みたい本それぞれで読み方を分けています。