デイリーポータルZ/林雄司氏

ココログでお馴染みのニフティが手がける、説明不要の人気サイトといえば「デイリーポータルZ」。開設当初から、ライターが身体を張って書き上げた面白記事を日々生み出しています。書き手の個性を前面に押し出したスタイルは今も健在。今回は、そんな体当たり企画の先駆けとして高い人気を誇る同サイトのWebマスター、林雄司さんを直撃しました。

インタビュー:川崎和哉(Spoo! inc.
テキスト:小林邦昭(Spoo! inc.

▼記事をひとつ書くにも、外に出て体を動かすというのがポリシーです

川崎デイリーポータルZは今年で5周年ですね。そのことについて、林さんのご感想をお聞かせください。

:今年の10月で5周年を迎えますが、正直こんなに長く続くとは思っていませんでした。日々の更新に追われて大きなリニューアルもないですが、順調に続けています。今は僕と古賀ともう1人の3人体制で運営していて、サイト5周年記念の企画をいろいろと練っているところです。
※ 古賀及子さん。詳しくはこちら「まばたきをする身体

川崎:PVも好調のようですね。デイリーポータルZは広告が少ないですが、その辺の話は来たりしないんですか。

:今は月に1700万ほどのPVがあります。サイトの運営が好調になると当然、広告やタイアップ記事の話も舞い込んでくるので一度受けたことがあるんですが、上手く回らなくて消滅しました。デイリーポータルZはそれぞれのライターが好きなことをやっているので、押しつけられた文章というのは駄目だったんです(笑)。

川崎:今ではデイリーポータルZに似たようなサイトも増えてきましたが、記事を書くにはライター自らの足を使って体験するという方向は昔から変わっていませんね。

:外に出て体を動かす、というのがポリシーなんです。PCだけの作業ですべてを済ましてしまうと閉鎖的になってしまうというか。それほどネットに浸かってない人にも楽しんでもらえる内容を目指していますから、わかりやすい現実のネタを記事にしています。だから雨の日は困りますね。天気ひとつでスケジュールがずれたりとか(笑)。

▼どこを見ても同じニュースが並んでいる今だからこそ、オリジナルの記事にこだわります

川崎:ネタはどうやって決めているんですか。これだけ長期の連載を続けているとネタ切れになりそうな気もしますが。

:ネタは各自に決めてもらっています。週一の会議で発表してもらい、そこで調整ですね。実は今日もこれからルノアールでミーティングなんですよ。会議は自由参加で、来られない人は事前にメールで告知してもらうことにしています。また、ネタ切れは僕自身ほとんどありません。本や雑誌からネタを拾ってそこに独自のアレンジを加えることで何とかなります。それに加えて雑学本なんかを読めば完璧ですね。要は、本から得た知識を自分のフィルターに通してこねくり回す、というのが僕のやり方なんです(笑)。ちなみに、定期的に読む雑誌はサライと日経MJです。

川崎:日経MJがデイリーポータルZのネタ元になっているとは驚きです(笑)。そこから生まれる1本の記事もそれなりのページ数と画像があるから、けっこうな時間がかかりそうですね。

:そうですね。1本の記事作成時間は、画像の加工も含めてだいたい3時間くらいです。それに写真の撮影も加わるからそれなりの手間ですね。僕がオリジナルの記事にこだわるのは、どこのポータルに行っても同じようなニュースが並んでいる現状の反対を行きたいからなんです。

川崎:1年くらい前から導入された再放送はいいアイディアだと思います。
※ 過去の記事をランダムでTOPに再表示させる機能

:再放送はライターの案です。バックナンバーが読まれないというのがデイリーポータルZの一貫した問題だったんですが、いい解決策だと思っています。また、ひとつの記事の最下部には関連記事を表示させるなど、そのための工夫はいろいろやっています。

川崎:「webやぎの目」も10年ですね。こちらもネタ切れせず、日々更新しているのはさすがですね。
※ 「死ぬかと思った」、「寝てる人」などの人気コーナーを擁する、林氏個人が運営する老舗サイト

:こっちはネタが決まってしまえば10?20分で書き上がりますね。昼間の会話で盛り上がると「あ、このネタ後で書こう!」とかよく思ったりしますよ。そういった日常生活のネタをメインにしています。さっき、電車の中で白人のかわいい子供がいたから少し見てたんですよ。そしたら、まわりも気にせず唐突に鼻をほじり始めて(笑)。「やっぱり、子供はどこの国でも一緒だな」と、大きな失望を感じましたね。

▼Web2.0というのは、みんながピエロになれる時代

川崎:デイリーポータルZは今でも手打ちのHTMLで更新しているんですか。

:TOPだけCMS を使用していますが、他はすべて手打ちです。原稿もライターにHTMLで入稿してもらい、画像の加工もお任せしてます。おかげでとても助かっています(笑)。
※ コンテンツ・マネジメント・システムの略。技術的な知識がなくてもサイトの更新が手軽にできる利点がある

川崎:デイリーポータルZを見ているとWebの最新テクノロジーから距離を置いているように思えます。林さん個人の嗜好はどうなんですか。

:僕自身ニコニコ動画は面白いと思いますし、最新のデジカメにとびついたりする人間なので、Webの動向やデジタルガジェットには興味があります。でもそれをネタにすることはありません。誰でも参加できて楽しめるサイトを目指してますから。

川崎:そんな林さんが語るWeb2.0って、すごい興味があります。

:以前ロフトプラスワンのイベントでみんなにピエロの格好をさせて、その中の1人にジュースを買わせたり恋人に電話させたりしたところ、かなり盛り上がりました。そこでは、誰もが気軽に参加できて人を楽しませることができたんです。僕はそれを見て確信しましたね。「Web2.0というのは、みんながピエロになれて面白いことができる時代」だということを。
※ 音楽・映画・文学・お笑い・政治経済など、あらゆるテーマを扱う新宿のトークライブハウス

川崎:それってすごく斬新な意見ですね。昨今のWeb2.0というムーブメントを暗示するようなエピソードだと思います。話は変わりますが、林さんはフリーペーパー「ゴメス」の愛読者だったと聞きましたが。
※ 以前、パルコが発行していたサブカル系フリーペーパー

:そうですね。「ゴメス」は生理用品の工場見学をしたり、ドラえもんラーメンに入っているドラえもん型のかまぼこだけをもらい、それで丼をいっぱいにして食べるとか、興味の赴くままに作っている感じが好きでしたね。当時は大学生だったんですが、大きな影響を受けています。

川崎:なるほど。その他、林さんの人格形成に関わったものってありますか?

:中学生の頃に宝島やビックリハウスを読んで、その後は相原コージさんや吉田戦車さんなどのマンガにハマりましたね。相原賞に応募したりもしてました(笑)。デイリーポータルZは写真の使い方が非常にマンガっぽいんですが、その辺も影響を受けていますね。
※ 小学館「ビッグコミックスピリッツ」が開催する新人公募

川崎:では、林さんの今後の予定を教えてください。

:普段なんとなくデイリーポータルZを見てる人でも手軽に参加できるような仕組みを作りたいですね。最近の記事は頭の中で考えたコネタが多すぎるんで、もう一回原点に立ち戻ってヘンなお店や変わったスポットを紹介するという、現実に則したネタを増やしたいです。その際は、だれでも簡単に投稿できるフォーマットがあるといいですね。一部の人が投稿するサイトではなく、だれもが参加できるメディアを目指してます。

川崎:面白いWebサイトを共有する仕組みはソーシャルブックマークとして完成していますが、現実世界での同じような仕組みはないですね。

:4年ほど前に会社の近所でボラが大量発生したんですが、みんなケータイでそれを撮影してるんです。僕はそれを見て、その写真が欲しいと思いましたね(笑)。それを誰とも共有しないのは非常にもったいないことですから。そういった、日常の面白いネタを引き出すラジオのパーソナリティのような存在がいれば理想なのかな、と思います。

川崎:最近のWeb以外で気になるものはありますか。

ナショナルジオグラフィックチャンネルの「メーデー!」という飛行機事故のドキュメンタリーにハマっています。再現フィルムが非常にリアルで、助からない事例だけを扱っているという悲劇的な内容なんです。もうひとつ、これもテレビですがFOX CRIMEという犯罪調査の専門チャンネルも面白いですね。こちらも再現フィルムがリアルなんですが、その途中にいきなりクイズが始まるんです。ボーッと見ているときでも、突然「クイズです!」と言われると引き込まれちゃうんですよね。あれは不思議です(笑)。

川崎:ハハハハ、その手法はアリですね(笑)。では、最後に気になるWebサイトを教えてください。

:最近はGoogle マップばかり見てますね。僕は地図が好きなんでただ眺めてるだけでも面白いんですけど、地図上のポインタでカルタ取りをやったら盛り上がりそうな気がします。たとえば、日本全国に絵札(=ポインタ)を置いて、どんどん拡大していくと中身がわかるという。読み札もどこかにUPすればいいし、複数で同時参加できるのが特徴です。これは一度チャレンジして断念したんですが、本腰を入れて頑張ればできる気がします(笑)。