小鳥ピヨピヨ/Gizmodo Japanのいちる氏

2005年度のアルファブロガーにして、大人気ブログ「小鳥ピヨピヨ」の執筆者としてお馴染みのいちる氏。ニフティ在籍時にはWebディレクターとして、ココログをはじめ数々のサービスを世に送り出してきました。そんないちる氏が見てきた、Web業界の変遷と未来についてお話しをお伺いしました。

インタビュー:川崎和哉(Spoo! inc.
テキスト:小林邦昭(Spoo! inc.

▼「日本には日記文化がある。ブログなんて流行るはずがない」と当時は言われました

川崎:いちるさんがニフティに入社された頃は、ちょうどパソコン通信からインターネットにシフトした時代ですよね。ニフティに在籍していた11年間でどんなサービスを担当されたんですか。

いちる:僕がニフティ入社の年にインターネットが商用化されました。最初はカスタマーサポートに配属されトラブルシューティング対応でした。サッカーでいうとゴールキーパーみたいなもので、ここを突破されたら終わりという部署です(笑)。5年経ってサービス企画の部署に移りました。映像配信サービスに始まり、ネット上で木を育ててみんなで土地を買っていくというインターポットというゲームや、デリポップというメッセンジャー、マ・ラソンというデイリーポータルZの元になったようなサイトなど、色々やりました。

川崎:なるほど、常にサービスの最前線にいたわけですね。

いちる:そうですね。僕のいた部署は新しいサービスを作って社会現象を起こせ! と、今にして思えば多少無茶なことを要求されているところでした(笑)。

川崎:アメリカで2001年頃にブログがブームになりましたよね。

いちる:パソコン通信の時代には「フォーラム」というキラーコンテンツがあったんですが、インターネット時代になってからのニフティはヤフーや2chが隆盛してくるなか、決定的なサービスを打ち出せずにいたんです。そこで考えたのは、ひとつの場にみんなが集まって交流するのではなく、インターポットみたいにひとりひとりが場を持つ方がいいのではないかと思い、ブログに注目してみました。

川崎:自身でココログに関わって、このサービスは大きく成長すると思いましたか。

いちる:最初は周りからダメだと言われましたね。すでに日本には「さるさる日記」なんかの日記やテキストサイト文化があって見慣れているということ。そして、ブログはタイトル・見出し・本文という日本人に馴染みのない欧米的な体裁を取っていること。いわゆるWeb1.0の時代に重要視されていたのは分かりやすさでした。ニフティでは一つのサービスを17文字で表現できないとユーザーは逃げる、と考えられていました。ブログって日記のようであるけれど、純然とした日記ではない。機能的な差別化要素はトラックバックだけど、自分もそれがブログのキモだとは思っていない。要は簡単に説明できない、説明できないから流行らないと周りからは言われました。でも社長の後押しがあってなんとかサービス開始にこぎ着けられたんです。

川崎:いちるさんは、その頃からブロガーだったんですか?

いちる:やってましたね。僕がブログを知ったのは2003年の2月で、企画して会社を説得したのが9月。開始が12月なんです。僕が「小鳥ピヨピヨ」をテスト的に始めたのが同じ年の7月、本格的に始めたのが9月ですね。

川崎:自分がブロガーになると同時に、会社を説得してサービス開始に到ったわけですね。

いちる:当時のブログは敷居が高くて、一部のマニアが注目してるだけでした。さっきも言いましたが、社会現象を起こすということが我々のメインコンセプトでしたので、ニフティにとっては、ブログを一般の人に広めることが大事だったんです。ですので、一般人が興味を持ってくれるよう、ものすごい簡単な、ある意味頭の悪い内容で「小鳥ピヨピヨ」を始めてみました。

川崎:ココセレブもその流れですね。

いちる:そうですね。ブログというワードで検索する人はいませんが、有名人の名で検索する人はいるので、そこから興味を持ってくれればいいかなと。あと、有名人が気に入ってくれれば口コミ効果も期待できますからね。でも、最初はほとんど断られました。「よくわからないけど、エッセイ書けばいいんですかね?」とか、そんなやり取りが主でした。ごく希に興味を持ってくれる人もいましたが。

川崎:プロモーションの効果はあったんですか。

いちる:ありましたねー。今では、芸能人から大学教授までブログを持つのが普通ですからね。ブログの強みはいったん捕まえたファンを離さない、つまりスティッキネスが強いんです。サンフランシスコやシリコンバレーではシックス・アパートやその他の人たちも「ブログで盛り上がるということはこういうことか」と感心していました。

▼面白いネタはみんなにメールをする。僕のブログは、その「みんな」の範囲を広げてるだけです

川崎:もともとメディアに興味があったとのことですが、小鳥ピヨピヨの影響力を考えると、今はいちるさん自身がメディア化されてますよね。

いちる:そこまで大きくはないですけどね(笑)。難しいことは言わず、ひとつのテーマにそった短いコラム、できれば写真や動画が付いたもの、それがネットではいちばんウケやすいんです。ネットを盛り上げているのは、こういった面白くてわかりやすくてみんなで共有できるコンテンツだし、それがネットを支えるベースになっていますよね。

川崎:なるほど。私のような出版出身の人間は、そういうキャプション的なわかりやすく短いコンテンツにこそ需要がある、という点には気付かなかったですね。

いちる:最近、インフォバーンが母体でGizmodo Japanというブログを始めたんですが、取材して裏を取って正確な記事を書くことはしてません。正確な記事も大切ですが、そうじゃないこともできるのがネットの魅力だと考えているからです。自分が気になった面白い写真や情報をみんなにメールする。その「みんな」の範囲を拡大してるだけです。

川崎:いちるさんの考えるギズモードの魅力ってなんですか。

いちる:米国のギズモードは携帯電話の新機種を替え歌で紹介したり、結構めちゃくちゃなんです。殆どがネタフルのようなリンクを貼って紹介するだけで、文章のノリもまじめじゃなくて、MTV的でサウスパーク的。ネットは雑誌にはない気軽さが、見る方も書く方も楽で、ある意味それが非常に重要な部分であり、魅力的でもあります。

川崎:ギズモードの収益は広告がメインなんですか。

いちる:純粋な広告のみです。書き手が本当にやりたいと思った記事しか書かないので、ギズモードはタイアップをやりません。これはブログの信頼に関わりますからね。

川崎TechCrunch(テッククランチ)や、Engadget(エンガジェット)など、ブログの体裁をしたプロのメディアが盛りあがっていますが、これについてはどうお考えですか。

いちる:ブログメディアは今までにないまったく新しいメディアだと思います。TV、雑誌をはじめとするメディアはなければいけないし、ブログ登場以降インターネット上の情報量も飛躍的に増えていますが、それらの情報が多すぎてしてしまうと人々が混乱する。それらを簡潔にまとめて紹介する二次情報リンク集としての「ブログメディア」は必要だと思います。ブログメディアで興味ある分野の最新情報のサマリーをチェックして、自分が気になった情報だけ、リンク先で詳細を確認すればいいんです。

川崎:「ブログメディアは二次情報を紹介しているだけだ」という批判がありますが、必ずしも一次情報でなくていいと。

いちる:そうですね。ブログメディアは面白い、気になるブログやサイトの一次情報コンテンツを紹介することが目的だから二次情報のリンク集でもアリだと思います。エッセンスを抜き出して紹介することが目的です。

川崎:ブログのコンテンツと絡めたプロモーションにはどんな方法がありますか。

いちる:商品のサンプルを配って、いい点も悪い点も書いてもらうプロモーションはブログっぽいと思いますね。たとえネガティブな情報であれ、ネットで流れている間はその商品は売れるんです。日本の企業は、自分のところの悪口を怖がっている。ダイエットコークにメントスを入れて爆発させるという有名な動画がありますが、アメリカではメントスのメーカー(Perfetti Van Melle社)がその動画のスポンサーになってるんです。日本だったらあわてて「当社の製品は安全です」といって火消しに躍起になるでしょう。

▼「ブログの持つ魔法」の効果をこれからも実証していきたいですね

川崎:いちるさんの努力も実りこれだけブログが浸透した今、小鳥ピヨピヨ、ひいてはご自身の今後について教えてください。

いちる:僕は仕事人間だったんですが、ブログを書いている間は会社の肩書きを忘れて素の自分に戻れたんです。毎回、印象に残った出来事をエントリーにして書きためていくと自分の変化に気付き、自分自身が明らかになっていくんです。常に情報を発信し続けることで自分の内面が明確になり、そこから色々な出会いも生まれる。ブログを続けることで僕自身の人生にも大きな変化がありました。この取材だって「小鳥ピヨピヨ」を続けていたからこそ実現したわけですから。僕はそれを「ブログの魔法」と呼んでいるんですけど、今後もその効果を実証していきたいですね。最近は、お笑いネタやビックリネタの人気がありますが、それに囚われず色々なエントリーの可能性を試したいです。また、僕自身は勉強中という思いが強いので、新たな就職先を探しています。独立してコンサルティングみたいな仕事であれば、話はあるんですけど、今はもう少し勉強したいですね。他にも、経営・経済や英語を学びたいです。

川崎:ITやデジタル関連で興味のあるサイトはありますか。

いちる:やはりブログメディアですね。その気になれば、ニートひとりでもできる気軽さに魅力を感じます。米国のTree hugger(ツリーハガー)というブログは環境に関するかっこいいクールなネタを紹介して、月の購読者は100万人いると聞きます。また、Native Heart(ネイティブハート)というブログは日々の生活でタメになるネイティブの知恵を毎日紹介してるんです。こういった、ITとはかけ離れているコンテンツが多くの人を惹きつけている。そこに興味を覚えますね。最後は、シックス・アパートのVOXです。SNS機能を持った次世代ブログですが、あまり日本で話題になっていないですね。お洒落なMySpaceみたいでアメリカでは結構な盛り上がりですよ。

川崎:VOXは日本で話題になってないので、僕はノーマークでしたね。

いちる:それと、IT業界全体に関わる問題なんですが、著作権に対する考え方を改める時期がきているように感じます。ネットが効果をフルに発揮するには、現状の著作権の概念を見直す方がいいと思います。情報発信者となる僕らひとりひとりが自分の情報を管理できる方がベターですね。クリエイティブコモンズみたいな形や、YouTubeだったら一定の解像度以下なら著作権を解放するとか。そして、ネットはネット専用の芸能界みたいなものを作った方がいいとも思います。従来の芸能界ではないコンテンツプールの場を作って権利関係の問題に慣れておく必要がありますね。タレントだけではなく、クリエイターや作家なんかも全部含めてです。そのアウトプット先はテレビではなくて、ネット上ですべてが完結するのが理想です。

川崎:なるほど、ネット専用の芸能界というのは興味深いですね。では、ネット以外で気になるものを教えてください。

いちる:身体感覚です。僕はずっと踊りをやっているので、身体には敏感なんです。だから体調と季節の関係や心理学的なものに興味がありますね。