100SHIKI.COM/田口元氏

日々、海外の面白いWebサイトを紹介し続ける老舗ブログ「100SHIKI.COM(百式)」。今回は百式の他に複数のサイト※1を運営し、Webプログラマーやデザイナーとしてのスキルも併せ持ち、日本におけるライフハック※2の第一人者としても知られる田口元さんをゲストにお迎えして、タスク管理のノウハウからブログを取りまく現状と今後の展望についてまで、様々なお話しをお伺いしました。

※1 idea*ideasimple*simplepop*popの3サイト。いずれも個別のテーマを持つ人気ブログ。
※2 仕事の効率を上げ、高い生産性を生み出すための技法・工夫。

インタビュー:川崎和哉(Spoo! inc.
テキスト:小林邦昭(Spoo! inc.

▼ライフハックとは常に変化するものと考えていますから、固定した1日というのはほとんどありません

川崎:最初に、田口さんの一日についてお聞きします。毎朝何時に起床して、その後はどんなスケジュールですか。

田口:だいたい朝6時には起きてますよ。朝の2時間でWebを見て、ブログを書いて、メールチェックを済ませます。その後はミーティングをしたり、プログラミングしたりと色々ですね。それ以外は決まってないんです。

川崎:ブログは朝に書かれることが多いんですか。

田口:そうですね。百式は毎日更新していますが、idea*ideaはネタを思いついたときに書いています。ノルマにするとつまらなくなるので。simple*simplepop*popは僕がネタを拾ってきて、スタッフに書いてもらっています。うちのスタッフは非常に優秀ですよ(笑)。この2つは今実験中なんですが、半年くらい続けてみて上手く行けばビジネスに繋げていきたいですね。ダメだったらやめればいいし、その辺は柔軟に考えています。

川崎:田口さんのブログや本を読むと、「時間管理の達人」という印象を受けますが、毎日のタスク管理はどのようにされていますか。

田口:ええ、仕事がないから達人ですよ(笑)。というのは冗談で、あまり固定した1日というのはありませんね。僕は常に変化するのがライフハックだと考えていますんで。固定化したら、その時点で終わりですからね。

川崎:なるほど。田口さん流のライフハックは、デヴィッド・アレンの提唱するGTDが基本になっているんですか。
※ 参考URL「GTD-仕事を成し遂げる技術

田口:そうです。細かいところのブラッシュアップはしていますが、かなり完成された理論だと思います。僕はGTDの考え方はそのままに、ツールを改善しています。良いものがなければ自分で作ったりもします。

▼ツールでも、アナログとデジタルを状況によって使い分けることが大切ですね

川崎:ご自身では、バブルマップのような手書きのアナログな手法も提案していますよね。

田口:バブルマップは負荷の大きい仕事を視覚化できるので、それを消すというのはストレスが解消されて非常に気分がいいんです。僕はデジタル一辺倒の人間ではないですからね。ストレスなく書き込むには紙、検索や保存をするときはデジタル、というように切り分けています。変なこだわりはありません。

川崎:田口さんが現在使用されているツールを教えてください。

田口:自作のツールですが、check*pad※1R*PAD※2の2つを重宝しています。基本はcheck*padでToDo管理ですね。そこに僕のやりたいことがすべて入っているので、これで優先順位を付けて管理しています。check*padが「近々やりたいこと」を管理して、R*PADが「特定の日付にやること」を管理しています。一週間以上先のことはR*PADに入れて、リマインドしてくれたときにcheck*padに入れています。仕事がきついときはバブルマップを使います。終了したタスクを書いて消す、という行為によってエンドルフィンも出ていい気持ちになれますからね。仕事をよりプロダクティブにしたいときはtask*padというツールを使います。これはポストイットに「何時何分までに○○をやる」と書いて貼るのと同じですね。
※1 ToDoリストを管理・共有するツール。
※2 メールで通知してくれるリマインダー。

▼ライフハックはこれ! という普遍的な答はないから、自分流にカスタマイズすることが必要

川崎:これまでのタスク管理で失敗した経験はありますか

田口:それは普通にありますよ。デヴィッド・アレンのGTDが優れている点は、多少失敗してもシステムとして壊れないという点です。根幹は「リスト化してレビューする」ということですから。毎週のレビューを欠かさなければ、失敗しても1週間でリカバリできます。

川崎:毎週のレビューは、いつやるんですか。

田口:土曜の朝にやってます。1週間にいちどやらなければならないことって、GTDのレビュー以外にも沢山あるんですよ。部屋の掃除やったり、資産管理をやったり。まあ、2時間くらいはかかってしまうんですが、頭の中を全部把握することの気持ちよさってありますよね。土曜の朝で全てがリセットされるから、ストレスはほとんどありません。そうなると時間に余裕が持てて、昔からやりたかったことができますし。

川崎:田口さんがライフハックに目覚めたきっかけを教えてください。

田口idea*ideaのテーマがライフハックなんですが、これはアメリカのブログに影響を受けました。ここ最近になってライフハックという言葉が一般化して色々な手法が紹介されていますが、すべての人に当てはまるかというと、僕はNOだと思うんです。それを改善して皆でシェアするというのが本当のライフハックだと思います。日々の単純作業の改善がなにより楽しいですね。ライフハックに関する本の執筆依頼は良く来ますが、僕個人のライフハックをそのまま紹介してもあまり意味がないと思うんです。

川崎:ライフハックの古典とも言える、梅棹忠夫「知的生産の技術」に書かれている内容は今でも通用しますが、それって40年以上も改善されない問題があるということですよね。これについてはどう思いますか。

田口:それは、1つの問題に対して解決のソリューションが個々人で異なるからでしょうね。普遍的な答があればビジネス書なんて不要ですから。解決策を取り入れて改善できる人とそうでない人がいるから、ずっと新書が出るサイクルなんですよ。ある意味、間違ったサイクルというか。先にも言ったとおり、ライフハックというのは人に教えてもらったことを鵜呑みにするのではなく、自分のライフスタイルや仕事術に合うよう改善するのが本質だと考えています。

川崎:改善と言えば、田口さんはツールも自分で開発されていますが、プログラマーの経験はあるんですか。また、自作以外のツールで頻繁に利用するものを教えてください。

田口:もともと日曜プログラマーだったんですが、ここ1年くらいで大規模システムは1人でもできるんだな、ということがわかりました。最初はかなり酷かったですが、今はプロの方にチェックしてもらってお墨付きをもらっています(笑)。自作以外でよく使うツールですが、まずGmailですね。ブラウザはFirefoxやスレイプニール、RSSリーダーはサーバーインストール型のフレッシュリーダーを使ってます。でも、特定のツールにこだわりすぎるのもお勧めできませんね。どんな状況からでも自分に合った作業環境を再現できる、というのが理想的です。ですから、僕はデータの破損と漏洩には充分注意しています。大事なデータはWebに置かないか、暗号化しています。また、ハードディスクが壊れた経験は何度もあるので、データは3箇所に分散するなどの対策も取っています。だから、今火事になっても全然問題ありませんよ。

▼ブログを運営するに当たって本当に怖いのは、炎上よりも話題にならないことです

川崎:コンサルティングやイベントプロデュースなど幅広い活動をしていますが、田口さんの肩書きはなんですか。

田口:百式管理人でいいんじゃないですかね。基本は楽しいことしかやりません。応援してくれる百式の読者と僕が楽しめることを色々提案していきたいです。今は有限会社化して4人体制でやってます。最近の悩みとしてはオリジナルコンテンツが少ないことですね。海外ネタを紹介するのもいいんですが、今後はメディアとしてのオリジナリティを出すために企画で勝負したいと考えています。

川崎:会社としては、どんな仕事が多いんですか。

田口:企業からはブログマーケティングについての相談が多いですね。大半の企業は炎上を気にされていますけど、それより怖いのが「話題にならない」ということ。僕はそこで、話題になりそうなユーザーの嗜好を色々とアドバイスしています。今後はそういった案件がもっと増えるでしょうから、協力者とのペイの分配について考えを巡らせているところです。個人的な考えとして「魚をもらうより、釣りのノウハウを教わった方が面白い」と思うんです。だから、僕と一緒に仕事をすることで協力者がどんどん力を付けて向上してほしい。仕事で得た利益は周囲の人間の成長に使っていきたいと考えています。その一環として、100SHIKI PR Boardを使って交流会を企画したり、ブログのシステムやデザインを提供しています。ブログ更新のモチベーションで一番大切なのは、人との繋がりですからね。ブログで儲けるというよりも、ブログを通じて交友が豊かになる。それが一番楽しいですよ。

川崎:田口さんは通常の経営者とはずいぶん考え方が違いますね。

田口:自分でも経営には向いてないと思いますよ。それこそ、社長がいたら雇いたいです(笑)。

川崎:ブログと広告の関係については、どうお考えですか。

田口:アドセンスをはじめとするコンテンツマッチ広告は、ユーザーのうっかりクリックを誘発させる方向に走りがちですよね。タイトルの下に入れてみたり、メニューの一部っぽく見せたり。そんな姑息な手段を取るよりも、名のあるブロガーには企業が正式な形でスポンサーをした方が良いのかなと思います。まあ、企業をスポンサーにつけられるブロガーなんて一握りだとは思いますが。現状の「とりあえずブログで話題にしてもらえればいいんです」的な考え方を企業は改める時期ですよ。力のあるブロガーと企業が支え合って、お互いに利益がもたらされる構造が望ましいですね。

▼今後の目標は、百式のブログメディア化と中高生のニーズを探るブログを立ち上げることです

川崎:海外ではブログメディアの台頭が目立ちますね。ベンチャーキャピタルの出資も始まっているようですし。

田口:僕の目標はGawkerなんです。始まったときは「なんじゃこりゃ」的な感想しかなかったんですが、今にして思えば先見の明がありましたね。日本ではまだまだ「人を雇ってブログを書かせてどうするの?」という風潮がありますが、ゆくゆくはブログメディアで収入を得る構造にしたいですね。僕の予想としては、今後のブログは雑誌化すると思います。いかに固定客を掴むかがポイントになり、広告もブログの内容に沿った企画広告的なものが増えるでしょうね。バナーだってただ貼るだけではなく、その企業のサポートする姿勢を明確にして、出稿の経緯を読者に説明することが必要になると思いますよ。
※ アメリカのブログメディア企業。Gizmodoをはじめとする複数のブログを運営し、芸能ゴシップからライフハックまで、幅広い情報を網羅している。

川崎:複数のブログを運営されていますが、田口さんが目指す今後の具体的な方向を教えてください。

田口:まずは、pop*popsimple*simpleを軌道に乗せることが先決ですね。そこからスタッフが独立して、他のブログネットワークに加わってもいいですし。また、百式とidea*ideaだけでは書ききれないネタがあるので、新しいブログも考えています。僕のブログの読者は30代がメインですが、もっと若い世代、携帯メインの中高生の動向を探りたいですね。大学生に聞いても、今の中高生については世代の壁を感じると言ってますから。家に帰って部屋にPCがあっても携帯でWebをやるという、僕にはまったく考えられない行動パターンなんです(笑)。最近は企業も就業中のPC閲覧に厳しくなっていますから、今後はPC=仕事、モバイル=プライベートというように切り分けが進むも知れませんね。携帯でショッピングや情報を収集するようになればメディアとしての可能性は非常に大きいですから、携帯をメインに利用する世代の動向には興味があります。
※ その名のとおり、複数のブログのネットワーク。それによりトラフィックが増大し、広告サイトとしての価値を高められるなどのメリットがある。