昼のセント酒

画像

現在ドラマ化されている「孤独のグルメ」、“このマンガがすごい!2012”オンナ編1位の「花のズボラ飯」の原作者、久住昌之による最新エッセイ本。

タイトルどおり「昼銭湯×昼酒=セント酒」がこの本のテーマ。浜田山、吉祥寺、北千住、浅草・・・都内の銭湯をまわり、その帰りに近くの居酒屋で一杯ひっかけて帰る。全10話がほぼこのパターンなのだが、とにかく銭湯の情報が充実している。食べ物系口コミサイトの充実さに比べると、銭湯の情報は乏しく良き銭湯情報を欲していた。銭湯の外観イラストは忠実かつ味があり、お風呂セットの値段から、その銭湯にまつわるうんちく・脱衣所・浴場の様子、客層まで事細かく書かれている。もちろん、銭湯内で起きたちょっとしたハプニングやら首狩り族の妄想話やら、・・・そんな少し笑えるエピソードも満載。

銭湯⇒居酒屋と過ごす休日がたまにあるのだが、「昼のセント酒」を読んでからなんとなしにやっていたこの流れがすごく贅沢に思えきた。個人的には武蔵小山の清水湯がお気に入り。銭湯価格で源泉かけ流し!追加料金はかかるが岩盤浴もあり。雰囲気◎、味◎、価格◎な店も多数・・・ぜひ久住さん目線でこの街を語っていただきたい。(菊入加奈子)

昼のセント酒
久住昌之 和泉晴紀
4862551157

大停滞(タイラー・コーエン著)

1970年代以降、世界経済の成長は減速していて、その理由は産業革命以来の成長の源泉だった「容易に収穫できる果実」――つまり、無償の土地、イノベーション、未教育の子どもたち――がすでに食べつくされたことにある。というのが、本書の中心となる論旨だ。
産業革命以来、イノベーションと経済成長が永続しているかのようにわれわれは錯覚しているが、実はイノベーションは40年前から停滞期に入っていて、成長をけん引する革命は起こっていない。インターネットは唯一の例外と言える大きなイノベーションだが、残念ながらインターネットは大きな雇用を生み出さず、人々を豊かにするイノベーションではない、というのが著者である経済学者タイラー・コーエンの主張だ。
(※彼はネットに疎い人ではなく、むしろネットが大好きらしい。同書もまず電子書籍としてリリースされた)
彼によると、2008年来の世界的な金融危機も、その本質的な背景はより長期的な経済成長の停滞にあるのだということになる。
これらのきわめてシンプルかつセンセーショナルな主張は、米国で発表された直後から当然ながら大きな話題となり、論争を巻き起こしたそうだ。僕も、なるほどーそういえばそうだったのかも!と目から鱗が落ちる的な部分と、うーんどうなんだろうと腑に落ちない部分と両方あった。確かなのは、間違いなく面白い本であり(しかも平易で短くてすぐ読める)、議論の入り口になる本(つまりネタ?)だということ。
「容易に収穫できる果実はすでに食べつくされた」というテーゼは素晴らしくキャッチーだと思う。(川崎和哉)

大停滞
タイラー・コーエン 若田部 昌澄
4757122802

羊の木

今年もっとも怖かった一冊がこちら。山上たつひこ原作&いがらしみきお作画というまさかのタッグによる本気の田舎モダン・サスペンス「羊の木」です。

舞台は日本海沿岸のひなびた地方都市。行政は流出した人口を補うべく刑期を終えた元犯罪者の受け入れを断行し、窃盗・傷害・詐欺・放火、はたまた強盗・強姦・殺人・死体遺棄など、さまざまな業を背負った11人がひっそりと町で生活をはじめます。もちろん市民に事実は伏せられたままで、彼らの来歴を知るのは受け入れに携わった一部の関係者のみ。刑務所を出てもなおドス黒いものを抱え続けた人々(全員、顔の味がすごい)は、停滞しきったド田舎のヌルい暮らし(まずそうなラーメン屋の描写がすごい)をズルズルと狂気へひきずりこんでいきます。

元犯罪者や住民たちの内面をごそっとエグる心理の書き方と、土地のにおいまで封じ込める丹念な生活の描き方があいまって、切実さのあまり読み進めるほどに胃がキリキリとしめつけられるような感覚に。原作はすでに完成しているそうなのですが、今のところストーリーの先に救いはまったく見出せず……。次巻はおそらくさらに怖い!
(高橋聡太) 

羊の木(1) (イブニングKC)
いがらし みきお 山上 たつひこ
4063523837

文化系のためのヒップホップ入門

ライターの長谷川町蔵さんと、アメリカ文学/ポピュラー音楽研究者の大和田俊之さんが、ヒップホップ全史を対談形式で解説。マッチョでヤンキー乗りのこのジャンルを、文化系=門外漢に向けて優しく解いた入門書です。
ヒップホップの誕生=オールドスクール期から、デ・ラ・ソウルらがその可能性を拡張させたニュースクール期、さらにジャンルとしての成熟を遂げた90年代……ここまでは、文化系リスナーの間でも何度も語られてきた領域だと思います。既成の作品を「サンプリング」という手法で作られる先鋭的な音楽として。本書中の言葉を借りれば「ポストモダン」な音楽として。
しかし、サンプリングが使われなくなり、打ち込み/シンセ主体のブリンブリンな音楽と化した00年代以降のヒップホップについては、なかなか語られる機会がなかった。実際、この辺からヒップホップが縁遠くなってしまった人は多いんじゃないでしょうか。私がまさにそうなんですが。
本書は、そんな00年代以降のヒップホップ状況もがっちり語り倒しており、そこが素晴らしい。音楽の新たな聴き方を提示してくれる一冊でした。
(澤田大輔)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)
長谷川町蔵 大和田俊之
4903951472

お厚いのがお好き?

ニーチェ「ツァラトゥストラ」、モンテスキュー「法の精神」、福沢諭吉「学問のすすめ」など、学校のテストで点を取るために名前だけは覚えたものの、肝心の中身は1ページたりとも読んだことのないような本が、世の中には山とあります。

かつてフジテレビで放送された「お厚いのがお好き?」は、すさまじいボリュームと小難しいタイトルで読み手を遠ざけ続ける格調高い書物を身近なキーワードで読み解き、笑いながら名著のエッセンスが学べる番組として人気を博しました。今回紹介するのは、2010年に発売された同番組の文庫版。複雑を極める古典の内容を、ラーメン、ダイエット、女子アナといったユルい話題になぞらえて軽妙洒脱に解きほぐしていく手法は実に痛快です。原典への呼び水となるおもしろエピソードも満載なのでブックガイドとしても十分に使えるはず。下巻の「なおかつ、お厚いのがお好き?」もあわせてどうぞ。(高橋聡太)