大停滞(タイラー・コーエン著)

1970年代以降、世界経済の成長は減速していて、その理由は産業革命以来の成長の源泉だった「容易に収穫できる果実」――つまり、無償の土地、イノベーション、未教育の子どもたち――がすでに食べつくされたことにある。というのが、本書の中心となる論旨だ。
産業革命以来、イノベーションと経済成長が永続しているかのようにわれわれは錯覚しているが、実はイノベーションは40年前から停滞期に入っていて、成長をけん引する革命は起こっていない。インターネットは唯一の例外と言える大きなイノベーションだが、残念ながらインターネットは大きな雇用を生み出さず、人々を豊かにするイノベーションではない、というのが著者である経済学者タイラー・コーエンの主張だ。
(※彼はネットに疎い人ではなく、むしろネットが大好きらしい。同書もまず電子書籍としてリリースされた)
彼によると、2008年来の世界的な金融危機も、その本質的な背景はより長期的な経済成長の停滞にあるのだということになる。
これらのきわめてシンプルかつセンセーショナルな主張は、米国で発表された直後から当然ながら大きな話題となり、論争を巻き起こしたそうだ。僕も、なるほどーそういえばそうだったのかも!と目から鱗が落ちる的な部分と、うーんどうなんだろうと腑に落ちない部分と両方あった。確かなのは、間違いなく面白い本であり(しかも平易で短くてすぐ読める)、議論の入り口になる本(つまりネタ?)だということ。
「容易に収穫できる果実はすでに食べつくされた」というテーゼは素晴らしくキャッチーだと思う。(川崎和哉)

大停滞
タイラー・コーエン 若田部 昌澄
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Crowsnest

Twitterで話題になってるニュース(リンク)を分野ごとのタブに分けてリストアップしてくれるソーシャルニュースリーダー。単にリツイートの数の多さだけではなくて、自分がフォローしているユーザーがリツイートしているものがより優先度が高く表示されるので、自分の興味のある内容のニュースにより出会いやすい設計になっている。あらかじめプリセットされているタブ以外にも、自分でフィルタリング条件をカスタマイズしたタブを追加できる。
ニュース共有のプラットフォームはこの1、2年でソーシャルブックマークからTwitter/FBに完全に移行した感があるけど、そういう時代のニュースリーダーとして、(まだ3日ほどしか使ってないけど)しっくりくる感じがする。Googleリーダーと連携できるのもありがたい。(抜)
type: Web / Apps

iModela iM-01

20cm四方くらいのコンパクトなパーソナルモデラ(切削加工機)が発表(発売は11月9日)されて、ちょっとした話題になっている。

iModeraでは、パーソナルコンピュータ上の2D/3Dデザインツールで作った形を、そのままプラスチックで削り出すことができる。これはつまり、かつて80年代後半にMacとPageMakerが紙メディアにDTP革命を起こしたのと同じようなことが、「モノ」において起きていると見ることができる。ボディのかたちや色もなんとなく、初期の一体型Macを彷彿とさせる。

これで作れるものはきっとまだ、ささやかなものでしかないだろう。でもわれわれは個人の机の上に、またひとつ新しい生産手段を手に入れたことになる。なによりそのことにまず、わくわくする。誰かのデザインしたデータはネットで共有されて、誰かがまたそれをカスタマイズしてネットに流すだろう。そんなオープンソースのようなモノの広がりにときめく。

これは、若き魂の反逆者たち(Young Soul Rebels)のための切削加工機なのですよ、きっと。(抜)

ケイリン・コミューターを作ってみた

NJS規格(ケイリンの規格)のピストフレームに内装ギアハブをインストールして、ケイリン・コミューターを作ってみた。自分ではけっこう面白いものができたと思うので、メモを残しておくことにする。
(というわけで以下は完全に趣味の世界なので、ご了承ください)
***
固定ギアはキツそうだけど、NJSのフレームに乗ってみたいとずっと思っていた。
そのような場合通常は、じゃあ固定ギアじゃなくて(変速なしのママチャリのような)フリーハブのシングルギアにすればよいのでは、という話になるのだが、
地元で「地獄坂」と呼ばれる坂の上に住んでいる僕の場合はそれでも辛そうで二の足を踏んでいた。
そんなときにSturmey-Archerというメーカーがいろんな仕様の内装ギアハブを出してることを知った。内装ギアハブというのは、ママチャリとか無印の自転車なんかにもよく使われているタイプの変速機で、外に出ているギア(スプロケット)は1枚しかないのに、3段とかの変速ができるようにできている。ハブ(車輪の中心部分)の中にギッシリと(←たぶん)ギアが詰まっているのだ。
Sturmey-Archerは2段変速から8段変速までの内装ギアをラインナップしていて、NJSフレームで一般的な120mmリア幅にうまくはまる寸法のものもある。しかもサムシフターと呼ばれる昔のMTBなんかで使われてた変速レバーが選べるのもよかった。
Sturmey-Archer S-RF5(W) という5段変速のモデルを使うことにした。
ちなみに、Sturmey-Archerには固定ギアの3段変速というピスト仕様のモデルもあるが(しかもカラーバリエーションもある)、固定ギアはやっぱりキツそうなので、弱気な選択になった。

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僕は英国のPlatical Cyclesというショップから通販で買ったのだが、買った後でSturmey-Archerの日本代理店ができたことを知った。なのでいまは日本でも買えるんじゃないだろうか。
このSturmey-Archer S-RF5(W)を持ち込んで、近所の小さなショップでホイールを組んでもらった。リムはARAYA RC-540。

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フレームは、岡山市の下森製作所というビルダーが作っている、PELOTON(プロトン)の中古をヤフオクで入手した。NJS規格品。

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クランクはSUGINO RD2。チェーンホイール(前ギア)もSUGINOの130J-44T 1/8(厚歯)。BBはフレームについていたSHIMANO BB-7600をそのまま使った。

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ステムはNITTO Perl 80mm。ハンドルバーはNITTOのオールラウンダーバーB258AA。シフターはSturmey-Archerの5段変速用サムシフター。

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8段変速用のサムシフターがあるなら、内装ギアも8段変速のモデルを選びたいところだったのだけど、サムシフターは3段用と5段用しかラインナップしていない。残念。
後ギアは19T。
IZUMIの厚歯チェーンを装着して、Sturmey-Archer S-RF5(W)をハブナットで固定しようと思ったら、ちょっとしたトラブルが。
僕が買ったS-RF5(W)は、本体以外に取り付けてケーブルを張るのに必要な部品一式が付いたキットになっていたのだが、そこに入っていた左側用のハブナットの長さがちょっと足りないのだ。頭が開いていないいわゆる袋ナットなので、長さが足りないとハブがしっかり固定できない。
しょうがないので、普通のピスト用のハブナットを買ってきたら、これが微妙にSturmey-Archer S-RF5(W)の車軸にハマらない。
スペックを調べたら、Sturmey-Archer S-RF5(W)の車軸はインチ規格で、直径が13/32インチ = 10.319mm なのだ。通常のリアのハブナットは10mmなので、0.3mm違う。溝のステップも違うのかもしれない。適合するナットが簡単には手に入らなそうだったので、とりあえず、ホームセンターで内径が11mmくらいのワッシャーを何枚か買ってきて、それを挟んでしのいでいる。
(近日中に適合するナットを手に入れたい)

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Sturmey-Archer S-RF5(W)にシフターケーブルをつなぐとこんなふうになる。

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ギアハブの軸の中に、インジケーターロッド(indicator rod)という部品をねじ込んで、逆の末端にワイヤーをつなぐ。
このインジケーターロッドには細かく種類があって部品の組み合わせと適合するものを選ばないといけない。僕の場合は、Mark Yellow HSA585 というもの。ロッドと細いチェーン状の部分との間に黄色い印が付いている。
このケーブルの調整にちょっと戸惑った。
シフターを5速にしたときに、ケーブルのテンションが若干ユルユルになるぐらいの状態にする。で、シフターをシフトダウン(ワイヤーは引っ張られる)していくと、インジケーターロッドが1段づつ引っ張り出されてきて、シフターを2速にしたときに、インジケーターロッドの印(黄色)が右側ハブナットの先端とちょうど同じ位置に来ればだいたい正しいらしい(これはS-RF5の場合。他のモデルの場合は知らない)。

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ブレーキは公道ピスト用の定番になっているDIA-COMPE BRS101。
ブレーキレバーはシンプルなTEKTRO FL750

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といったわけで、こんなケイリン・コミューターが組み上がった。
(この写真↓ではチェーンのテンションがちょっと緩かった。。)
サドルはド定番のsan marco CONCOR SUPERCORSA
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1週間ほど駅の往復に使ってみた時点で、いくつかの問題点が持ち上がっている。
シフターが2速以上にしようとするとけっこう重たいのと、ギアによって微妙にカチカチ音がすること。調整で解消するのか、どうしたってこんなものなのか、よくわからない。
そして、ギアハブとシフトケーブルを繋いでいる部品が横に出っ張っているために、右足の踵と微妙に干渉するのがいちばんの問題だ。出っ張りが少なくなる(ロープロファイルな)部品もあるようなので、交換した方がいいかも知れない。

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とは言え、NJSフレームは思ったよりずっとフツーな乗り心地だし、ギアハブは自重が1㎏以上あるのだけど意外と軽いし、もう少しチューニングすればなかなか快適なコミューターになるかもと実感できた。
このケイリン・コミューター=内装ギア化ピストという手法は、古いフレームのコンバージョンにけっこう使えるんじゃないだろうか。
というかむしろ、内装ギアハブを使うならピストのようなリアエンド形状(正爪)や、古いロードバイクに使われた逆爪のホリゾンタル・ドロップアウト(カンパニョーロエンド)の方が適している。ハブを前後に動かしてチェーンのテンションを調整できるから。
今回はリアエンド幅が120mmだったのでSturmey-Archerを使ったが、リアエンド135mmのMTBフレームなどの場合は、SHIMANOの最新のAlfineギアハブが使える。
古いMTBには逆爪のホリゾンタル・ドロップアウトのものがあるので、ぜひ中古を入手して内装ギアハブ化してみたいと思っている。

新しいネイバーフッドが求められている

もしこの本に書かれていることがすべてだとしたら(僕は行ったことがないのだが)、ポートランドは、現代の都市の理想形のひとつに思えてくる。
『グリーンネイバーフッド』という本を読んだ。
ポートランドの「パール・ディストリクト」という元倉庫街の再開発事例を中心に、この都市の独特の――
・コミュニティ志向
・文化的多様性
・クリエイティブ性
・エコ指向性
――といったものをたくさんの大きな写真とともに紹介している。
読んでて個人的に「ポートランドいいなー行ってみたいなー」と思えたのは次のようなポイントだ。
・さほど広くないエリアに、いいレストランやカフェ、ショップ、アートギャラリーなどが集まっていること。
・しかも、グローバルチェーンストアではなく、ローカルで独立系のそういう店が並んでいるらしいこと。
・そこをクルマではなくて、そぞろ歩きできること。
・路面電車が走っていること!
・全米有数の自転車都市でもあること。
・古い建物をコンバージョンして使っていること。
・「ファーストサーズデイ」というアートをテーマにしたブロックパーティが毎月第一木曜日に行われること。3ブロックから車を締め出してやるんだそうだ。
・コーヒーがおいしそうなこと。
・地元の小ブルワリーのビールが飲めること。
・地元の大きな本屋さんがあること。
・有名な自転車ビルダーがいくつもあること。
・小さい都市なのに、ナイキ、コロンビア、ワイデン&ケネディのような世界的企業の本拠地だということ。
・アートカレッジがパール・ディストリクトの街の中にあって、クリエイティブな学生街っぽさがありそうなこと。
・などなど。
それにしても、どうすればこんな都市が成立しうるのか?
この本の中では「アーバン・ネイバーフッド」というキーワードが繰り返し出てくる。
都市の風通しのよさと、コミュニティの親密さを兼ね備えたような新しい関係性というようなことだろうか。そういう関係性を生み出すことに意識的になって、街をデザインする。
あるいは、「ダイバーシティ(多様性)」に意識的であることが一つの鍵であるようにも読める。意図してあえてゾーンニング(機能・用途で区分けすること)をしないで、いろんな機能の店やオフィスや住居、いろんな階層の人たち、グローバルブランドからローカルビジネスまでを、街中に混在させること。
ただ、その多様性は、たぶんある「節度ある幅」に収められているんじゃないのかと思われる。
この街は知的でセンスがよく、かつ適度にフレンドリーで、ちょうどいい大きさで、節度ある自由が保たれているが、それは言い換えれば、いわばヤッピー的、ボボス的な文化レンジでしっかりディレクションされているということでもあって、その意味では、逆に選民的と言えなくもない気がする。
(とはいえある程度選民的な街でないと(どんな民を選ぶにしても)、魅力的にはならないのかもしれない)
アーバン・ネイバーフッドを創り出す、ダイバーシティを保つ、と文字にするのは簡単だが、これを街に参加するプレイヤーの自主性に任せているだけだと、ふつうはなかなかうまくいかないような気がする。行政的制約か経済的制約が必要だと思うのだが、ではそれをどう行使したらうまくいくのかは僕にはさっぱりわからない。
この本からは、パール・ディストリクトの開発には、公共的センスがありヴィジョンを持った民間ディベロッパー(ホイト社)と進歩的な公共機関(ポートランド市開発局)の協力関係、そしてコミュニティや街のビジネスを支援するNPOとの連携が成功の背景にあったということがうかがえる。
でも、こんなふうに理想的にパーツが揃うこと自体がそうあることではない上に、これらだけがパール・ディストリクトの要因というわけではないだろうから、なんにせよ並大抵なことではない。
ちょうどこの『グリーンネイバーフッド』という本を読んだ頃に、前後して――
建築家の馬場正尊の『都市をリノベーション』という本、
 隈 研吾と清野由美の『新・ムラ論TOKYO』という本
――を読んだ。
たんに偶然続けて読んだだけだったのだけど、いずれにも共通していたのは、「新しいネイバーフッド」がいま求められてるんだ、面白いんだ、という考え方だろう。かつての村的なコミュニティよりももっと自由な、都会的なコミュニティを作るのが、これからの都市開発なんだということ。
最近東京では都心でさえ、コンビニとチェーンストアによる「最適化」が進んでいるように見える。都心の再開発でできるビルはたいてい、ありふれたチェーンストアにちょっと気の利いたチェーンストアが組み合わせられている。
僕の家の最寄駅前にいたっては、学生が多い街のはずなのに、コンビニとチェーンストアだらけになってしまった(そんな中で独立系も頑張っているのは美容室とラーメン店か)。
コンビニとチェーンストアしかないのにやたらに地価の高い土地に住む理由ってなんなんだろうか。。

グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた
吹田 良平
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「欲しいものがない」時代に欲しいものを創り出すエンジン

話題のモノ繋がりSNS sumallyを試してみたのだが、これはけっこう面白いかもしれない。
モノに特化したtumblrみたいな構造の(たぶん)日本発のサービスだ。tumblrはなんでも流せるが、sumallyは基本的に「欲しいモノ」か「持ってるモノ」を流す。
いまは有名なオシャレピープルがたくさん
初期ユーザーとして参加していて(きっと初期のキュレーター役として事前にアサインしたんですよね)、その人たちがいいものをたくさん登録してることもあって、タイムラインに流れてくるモノのセンスがよくて、現時点ではそれも面白いと思わせる大きな理由だろう。
やっぱりこういう「仕込み」はサービスロンチ時にはすごく大事なんだなーとつくづく思った。最初に使ってみたときにどうでもいいものしか流れてなかったら、もう二度とそのサイトにはやってこないだろう。
センスのいいものが流れてくると、自分も「want it」(それほしい)をクリックするので、それがまた自分のフォロワーにも流れて行って、どんどんwantが連鎖していく、というこのサービスの全体像がすぐに体験できる。
僕はあまり物欲のあるタイプの人間ではないのだけど、それでも、フォローしているユーザーが登録したモノが流れるのを眺めていると、これイイ!欲しい!と思わせるものがけっこうある。ストリームでどんどん購買する可能性のあるモノが流れていくこの構造は、「欲しいものがない」時代に欲しいものを創り出すエンジンとして優れているかもしれない。
2000年代後半まで世界経済をけん引していたアメリカ人の消費行動がリーマンショック以降、大きくかつ本質的に変化してきているということを書いてる『スペンドシフト』という本がある。帯にあるまとめを引用すると、スペンドシフトとは――、
自分を飾るより→自分を賢くするためにお金を使う
ただ安く買うより→地域が潤うようにお金を使う
モノを手に入れるより→絆を強めるためにお金を使う
有名企業でなくても→信頼できる企業から買う
消費するだけでなく→自ら創造する人になる
という変化なのだそうで、お金の使い方に対するアメリカ人の意識革命みたいなものだ。
日本人はもっと前からそうだった気もするが、こういう流れは実感としては確かにあって、それは新しい消費のかたちを創り出しもするだろうが、短期的にはモノを売れなくする作用があるだろう(米国の経済が弱まってる原因のひとつかもしれない)。
そういうモノが売れにくい状況下で、モノと人を上手に出会わせることが出来たら、出会えた人は人生が豊かになってハッピーだし、メーカーはモノが売れてハッピーになれる。sumallyがそういう、健康的な物欲の活性化装置になったら面白いだろうなと思った。

スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ―
ジョン・ガーズマ マイケル・ダントニオ 有賀 裕子(あるが ゆうこ)
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まともな電子雑誌を金を払って買いたい

すごいタイミングでGoogleがデジタルコンテンツの支払いサービス(One Pass)を発表したそうだ。アップルが発表した定期購読サービスにぶつけてきたんだろう。内容的にも料率がアップル30%に対してこちらは10%なので、アップルのモデルにはブーイングが巻き起こってる一方で、Google One Passは好意的に受け入れられているような構図になってる。
どうなんだろう。確かに
AppStoreの30%はボッってると思うし、自社サイトでのアプリ購入に誘導するリンクが禁止というのはひどいと思うし、コンテンツによっては(たとえばTechCrunchが取り上げていた音楽ストリーミングサービスのように)壊滅的な影響を受けるものもあるかもしれない。ただそれでも、AppStoreで定期購読サービスが始まることに可能性を感じるコンテンツプロバイダがいることも確かだろう。
特に日本だと、Androidはこれからなので、まずはiPhoneアプリ市場でアドバンテージを取って、、みたいに考えるコンテンツプロバイダは多そうだ。なにしろ現状のAppStoreのブックカテゴリなんて115円の電子書籍が目白押しで、そんな値段だから利益なんてロクに出ないけど参入者が後を絶たないのだ。
もちろん、Google One Passが魅力的なのも言うまでもない。こちらはアプリに限った話ではないので、Webページも含め、いろんなフォーマットのコンテンツを有料で販売するシステムが簡単に手に入る。
有料コンテンツの夢は、商用Webが誕生して以来、何度となくコンテンツプロバイダを魅了しては絶望させてきた経緯があるけど、こんどはどうなのか。
米Wired誌の記事「The Web is dead」でもあらゆるコンテンツが無料への圧力を受けるWebに対して、アプリという商圏への期待感が語られていたけれど、僕も、まだしも購読料を取れるのはアプリというフォーマットだと思う。個人的にはオープンなWebのフォーマットのほうが好きだが、Webのコンテンツからお金を取るのは、感覚的なところでこれからも引き続き難しい気がする。
iPadで読む雑誌、というカテゴリは既にいくらでもあるようなイメージがあるが、実際には既存の雑誌の誌面レイアウトをそのまま落とし込んだものでしかなく、これはどう考えても紙の雑誌の粗悪な廉価版でしかない。これからはタブレットに特化したレイアウトのものでまともなものがどんどん出てくる必要があり、この分野はほんとこれから、という気がする。そしてそういうコンテンツには、定期購読モデルが最適だろう。
ここに有料コンテンツの商機があるんであれば、毎月30%取られても商品を出したいコンテンツプロバイダはたぶん少なくない。これからタブレットはもっと軽く薄くなり、そうなれば現在のモバイルノートPCの座を次第に奪っていくと僕は思っているのだが、その時には現在の紙の雑誌の多くは、タブレットに最適化した有料アプリとして供給されるに違いないし、そうであるべき(すべてがウェブ版の無料ビジネスにならないほうがいい)とも思っている。
無料のウェブは僕も大好きだが、でもいま自分が金を払って買ってる雑誌なら、それのタブレット版にも金を払う気は全然ある。無料では作ることが難しいコンテンツというのがたしかに存在するからだ。
※写真はタブレットに特化したレイアウトを持つ米WiredのiPadアプリ版。

エロい自転車が教えてくれること

最近家に帰ると、ネットで官能的な写真を見続けて止まらなくなってしまうのだが、その被写体は肌色のそれではなく、主に鉄やアルミでできている。
自転車はエロい。そして好みの異性のタイプがあるように、自転車もどんなタイプのものにフェティッシュな欲望を抱くかは人それぞれのようだ。
僕の場合はもっぱらツーリングバイクだ。現代的なロードレーサーもいいけど、そそられるのはそのタイプじゃない。
日本でも自転車旅を特集した雑誌やムックをよく見かけるようになってるが、米国では近年ツーリングバイクに人気があるらしく、僕好みのチャリ画像が大量にネットに転がっているのだから、たまらない。
僕がよく見てるのは、
この人↑(EcoVelo)の写真は本当に素晴らしい。自転車もセクシーだし、写真も出来すぎなくらいきれいだ。
米国の現在のツーリングバイクの定番的な仕様は、クロモリのちょっとクラシックなシクロクロス的なフレームで、サドルは英国Brooksの革サドル。ハンドルはドロップが多いけど、ムスターシェ(こういうの)と呼ばれるドロップハンドルを上からつぶしたようなハンドルも見かける(70年代日本でセミドロップと呼んでいたものに似ている)。シフター(変速レバー)はバーエンドシフタ―と呼ばれる、ハンドルバーの両端に付けるタイプのものがよく使われている。このムスターシェ+バーエンドシフタ―の組み合わせがたいへんそそるのだ。日本でツーリングバイクというと70年代に流行したランドナーと呼ばれるフランスルーツの独特のスタイルがあり、最近はランドナーはリバイバルもしているのだが、僕はランドナーよりもシクロクロスフレーム+ムスターシェハンドル+バーエンドシフタ―の米国風のパターンに萌える。
(とは言え、米国のサイクリストからも日本のランドナー文化はリスペクトされているようだ)
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例えば(シクロクロスフレームではないが)これ↑とか(CC by mindfrieze
これとか(ああこれもシクロクロスフレームではない)、
(ムスターシェではないが)これとか
そして、キャリア(荷台)だ。東京でもキャリアを付けた自転車が少し増えているような気がしているのだが、どうだろうか。キャリアはグラマラスだ。キャリアが付いているだけでも魅力的なのだが、キャリアの両サイドにパニアバッグという自転車専用バッグを装着し、リアだけだけじゃなくフロントにも付けた超グラマーなバイクには相当悩殺される。
(ただ、この場合はフォルム的に美しいというよりも、そこから連想される旅に憧れているだけかも)
Fully Loaded Touring Bicyclesに行くとこの手のフル積載バイクをたっぷり楽しめる。
あと、板金のフェンダー(泥除け)も大いにフェティッシュの対象なのだが、僕はこれから勉強という感じで、自分の自転車にもまだ付けたことがない。
ところで、日本はきめ細やかでこだわりのあるモノ作りが得意で米国は高効率化されていてグローバルでおおざっぱというのは、ステレオタイプな幻想かもなーと、自転車関連のサイトをめぐっていて思わせられた。
Linus BikeVelo ORANGEのような、美しくオールドスクールな自転車を作る新しいブランドがあったり、100年以上も自転車のカゴを作り続けているメーカーがあったり、トラディショナルなデザインのキャンバスの自転車用バッグを作っているメーカーがあったり、
日本の老舗フレーム工場やパーツメーカーをリスペクトしていたり、
まあ、一部のサイトを見てるだけの印象論でしかないのだけど、なんかモノにフェティッシュなこだわりを持っているのはどっちかというと彼らのように見えてくる。実際のところはどうなんだろう。
自分のセンスで美しく組み上げた自転車に愛情を注ぐ姿というのは、僕には人間の姿勢としてとても好ましいもののように感じられる。100均と270円居酒屋みたいなデフレカルチャーの波に洗われている僕らには、気づかされることがいろいろある。
Photo: CC by rperks1

「貨幣空間」で幸福になるには

これは新しい幸福論の本だ。
スタートラインはこの10年ほど大流行している「自己啓発」への違和感。橘玲は、勝間和代に代表される自己啓発の基本的なテーゼである、「やればできる」(誰でも能力を開発することで幸福になれる)に対して、「やってもできない」のだという立場をとる。「わたし」は変えられないからだと彼は言う。。
そしてゴールは、やってもできない「わたし」が「残酷な世界」の中で成功するための橘玲流の成功哲学だ。

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
橘玲
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この成功哲学を、橘玲はまえがきで早くも明らかにしている。
つまるところそれは――
伽藍を捨ててバザールへ向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。
――ということなんだと。
※まえがきは橘玲のサイトで公開されている。
ネット文化にちょっと通じている人ならこれが、1行目はエリック・レイモンドの「伽藍とバザール」からの、2行目はクリス・アンダーソンの「ロングテール」からのインスパイアで出来上がった教訓だということにすぐ気がつくはずだ。でもなにが言いたいのか、これだけではわからない。
ネタばれになるのでここでは書かないが、正直なところ、この「成功哲学」そのものは、実にあっけないものだ。
実にあっけないのだが、しかし。
このあっけない結論にたどり着く長い論考の過程で彼は、最新の自然科学、社会科学、情報科学、経済学からの収穫を、興味深いエピソードやたとえ話を伴わせながら、次々に援用していく。われわれの常識を裏切っていく、めくるめくエキシビジョンのようなこのツアーこそが、本書の面白さになっている。神やこころの「正体」に言及しているところまであるのだが、まるで人間の世界の成り立ちをすべて解き明かそうとしているかのようだ(膨大な読書ガイドとも言える)。
僕が印象に残ったとこだけメモすると、、
・自己啓発では「わたし」は変えられない。人の知能の70%は遺伝で決まる。また、知能はさまざな能力がモジュールのように組み合わさって構成されていて、どんな能力が優れ/劣っているのかは人によって様々だが、言語的知能、論理数学的知能が優れている人が労働市場で優位になる。
・自己啓発思想のバックグラウンドには社会進化論がある。
・社会進化論はダーウィニズムを社会にもあてはめたもので、西欧による新大陸、アジア、アフリカの植民地化の正当化の背景になった思想。ヒトラーのドイツ、ソビエトの共産主義の背景でもある。
・人間関係には――、
愛情空間(家族や恋人)
友情空間(親しい友人)
上記に知人との関係も含めて政治空間とよぶ。
政治空間の外側には、貨幣を通じて繋がる広大な貨幣空間がある。
・かつての富豪は政治空間の勝利者だった。相手を倒して、権力を奪取する(堤義明)。現代の富豪は貨幣空間で人と人、ビジネスとビジネスを結び付けることで富を生み出す(孫正義)。
・政治空間が貨幣に浸食されている。友情空間もすでに失われつつあり、「ともだちのいない世界」が出現した。愛情空間がモロに貨幣空間と向かい合っているのが現代。
・貨幣空間は冷淡だが、政治空間のように残酷ではない。貨幣空間では市場の倫理を遵守している限り、差別されない。学校でいじめられた子供も、貨幣空間では生きる場所が与えられる。
などなど。
後半、話題はいよいよ「幸福」の問題へと近づいていく。「幸福」はおそらく橘玲という作家の最大のテーマだ。彼は自由について語ることが多いが、自由もまた幸福へのアプローチなのだろう。
なぜわれわれは幸福になれないのか、幸福とはなにか、といった究極的な話題を、進化心理学からの収穫やインターネットで生まれた貨幣を超えた「経済」の事例を引きながら論じていく。そして、グローバルでフラットでフリーでネットワークされたわれわれの世界において、幸福になるための処方箋を書く。まえがきで予告されていた成功哲学が具体的に語られるのだ。
先にも書いたように、それは僕にはなんだかあっけないもののように感じられたし、それを実践して成功するのは決して簡単なことではないとも思うのだけど、橘玲が施策の果てにたどりついた、ひとつの誠実な結論であることは間違いないと思う。
Photo: CC by latvian